2月のうまいもん/酒粕料理
代用食をテーマに女子大生が新たな酒粕料理を創作
寒の時季に入ると、恒例の酒粕プロジェクトが催されます。酒粕プロジェクトは、11年前に酒粕文化の危機を憂いて始まったもの。酒粕の流通量が減少し、家庭でも料理が多様化したために関西では冬場になると必ず食卓に上がっていた粕汁さえ作る機会が減ってきたのです。悲しいことに徐々に酒粕文化が薄れて行ったのです。酒どころの灘や伏見を中心に酒粕の調理利用も時代と共に失われかけていたのが10年前くらいの出来事です。酒粕は、栄養も豊富で健康的要素もあるために食材として見直されており、しかも食材の味を引き出し、味をまろやかにするなど調理的効果も高い食材です。そこで、このまま酒粕文化が薄れて行くのは勿体ないとばかりに立ち上げたのが酒粕プロジェクト。酒粕料理が関西特有の食文化だと多くの料理人がその主旨を理解してくれ、毎年約30以上もの飲食店・企業・団体が参加しています。プロジェクト効果により、そのうねりは大きくなって今やちょっとした酒粕ブームを巻き起こすまでに至っているのです。そして2月から3月までの2カ月間は、参加飲食店で酒粕料理を提供しており、食の現場をあげて酒粕プロジェクトを盛り上げているのです。
酒粕文化の復活要因は、何もプロだけの表現に留まりません。一般人の参加も重要で、特にこれからの食文化の担い手となる若い人達へのアプローチも必要となって来ます。神戸酒心館では、大阪樟蔭女子大学とコラボし、フードスタディを専攻する女子学生に同校の授業「フードメディア演習」を通じて酒粕文化を伝えています。授業では「福寿」の酒粕を学生達に手渡し、酒粕の調理上での効用を考えてもらうと共に学生にオリジナルの酒粕料理を創作してもらいます。同授業を受講している三年生をチームごとに分け、各班でコンセプトを考えてオリジナル酒粕料理を考案してもらうのです。12月半ばにプレゼン大会を開き、そこで優秀賞に選ばれた作品を1月下旬の酒粕プロジェクト発表会で披露。飲食店で提供するプロ作品と肩を並べる形でマスコミ発表を行います。加えて、優秀賞に輝いた作品は、2〜3月の2カ月、「さかばやし」でメニュー化して提供する事が決まっています。
今年度の優秀賞に選ばれたのは、豊川いのりさん・河内屋柚乃さん・中西紗和さん・川本紗貴さんの4名が創作した「忘れ去られた麩の焼きを求めて〜くぎ煮としぐれ煮と酒粕あん〜」。彼女達は、千利休が茶会の和菓子として用いたとされる麩の焼きをモチーフに酒粕料理を具現化しました。本来、麩の焼きは小麦粉を水で溶いて薄く焼き、芥子の実などを入れて山椒味噌や砂糖を塗って味付けするのですが、彼女達は薄力粉と酒粕を混ぜて水でのばしてフライパン上で焼いて麩の焼きを作っています。この作品のコンセプトに掲げていたのは、なくなりかけて行くものへのオマージュ。メンバーの豊川さんは「いかなごの釘煮が好きなのに近年いかなごが獲れなくなってなかなか食せなくなりました。ならば釜揚げシラスで代用して模倣できないかと考えました」と語っています。シラスでいかなごの釘煮もどきを作り、麩の焼きに載せてメニュー化を試みました。二つ目は、昨今、二酸化炭素を多く排出する牛を飼わない方がいいとの見解も出てきていることから牛肉の代わりに大豆ミートを使い時雨煮にして麩の焼きに載せたものも合わせてSDGsメニューとして発表しています。また麩の焼き本来の和菓子要素も鑑み、三つ目はあんこと餅を使用したものを。チーズ代わりに酒粕を焼いているのもユニークな点です。この三つ目の和菓子風も加えて創作料理を完成させました。「さかばやし」では、シラスの釘煮・大豆ミートの時雨煮・あんこと餅、焼いた酒粕のこれら三つの要素を、酒粕を加えた麩の焼きに載せて提供します。
前述したようにこの女子大生作品は、2〜3月の2カ月間「さかばやし」にて要予約(平日限定)で「酒粕麩の焼き三種」としてメニュー化し、提供する事になっています。女子大生の作品以外にも酒蔵名物の粕汁や酒屋鍋、そして大谷直也料理長の酒粕料理も酒粕プロジェクト期間中(2〜3月)に登場します。ぜひこの機会に神戸・灘の冬の風物詩「酒粕料理」をお楽しみください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2025年2月
料理長おすすめ「酒粕料理」の一品
■酒粕ちー寿(チーズ) 880円
■神戸ポークと里芋の酒粕煮 1,000円
■帆立貝の酒粕和え 1,100円
■粕汁おでん 1,400円
■粕汁小鍋 1,600円
※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。
※写真はイメージです
大阪樟蔭女子大学学生考案の一品
■酒粕麩の焼き三種 1,200(円)
シラスの釘煮・大豆ミートの時雨煮・あんこと餅と焼いた酒粕を合わせた酒粕料理
※平日限定2日前の要予約