神戸酒心館

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5月のうまいもん/烏賊(イカ)

今月のうまいもんさかばやし

酒の肴には、炙ったイカだけでいい?!

 八代亜紀の「舟唄」で「お酒はぬるめの燗がいい、肴は炙ったイカでいい」という一節があります。この唄でもわかるように日本では古くから酒の肴にイカが当てられ、ちびちび飲む光景がどこの店や家庭でも見られたようです。百貨店やスーパーでも酒のアテ、もしくは珍味となるとイカを使ったものが多く、するめにあたりめ、さきいか、イカの塩辛、イカのトンビなど名前を挙げるときりがないほど。つまみの域は越えていますが、料理に巻烏賊やイカの印籠詰めも。イカ徳利という日本酒と合わせたイカの使い方もあります。ちなみにするめとあたりめは同じもので、イカの内臓を取り除いて乾燥したもの。さきいかは、生のイカやあたりめを炙って焼き、それを割いたものを指します。イカのトンビとは口にあたる部分をいい、印籠詰めとは材料を詰め込む手法で、イカの胴体を印籠に見立てて酢飯を詰め込んだスタイルをイカの印籠詰めと呼んでいるのです。イカ徳利は、イカの胴体を徳利状に加工した、いわば食べられる容器。燗した日本酒を入れると、イカの旨みが燗酒に溶け出して味わい深く、まさに「舟唄」の世界を地で行く光景になります。
 イカの産地を調べてみると、2019年の調査では、1位が青森県で全国シェアの約23%に、2位が北海道で約18%強。やはり北国が多いようで、「舟唄」のイメージとかぶってしまうのも否めません。北国の印象が強いイカの産地の中で少し意外なのは、3位に兵庫県がランクインしている点。翌年は長崎県が3位に上がったので4位に落ちてしまっていますが、4%~7%のシェアの間を兵庫・長崎・宮城の三県で競っているのです。兵庫県内でのイカの水揚げ地はどこかと探ってみると、明石や淡路島の瀬戸内側ではなく、新温泉町や香美町、豊岡市の日本海側。やはりどこまで行っても北国イメージは拭(ぬぐ)えないのかもしれません。
 何はともあれ日本人は、イカ好きのようで、全世界の4割以上をも日本人が食べてしまうのだから驚きです。イカは、世界には450~500種も存在し、日本近海にも100種以上いるとされます。そのうち日本人が食しているのはスルメイカが最も多く、ヤリイカとアオリイカ、甲イカの4種がそのほとんどだともいわれています。日本で最大の水揚げを誇る青森県八戸港は、1972年から50年に亘り、トップの座を渡していないそうですが、そんな産地でもイカの不漁は深刻で、全盛期の5%まで減ったと伝えられています。そう言えば、イカの不漁は、近年問題化しており、明石や淡路島の漁師からもそんな声をよく耳にします。イカの塩辛を造る加工業者は、原料費が10倍まで跳ね上がり、さりとて瓶詰めの商品はなかなか値上げできずに困っていると言います。私達の周りには、イカを使ったつまみや珍味、酒の肴がこんなにも溢れているのに、それを取り巻く環境は刻々と変化しているのが現状なのです。
 ところで皆さんは、料理にイカ墨があるのにタコ墨が見られないのに疑問を抱いたことがあるでしょうか。パスタにイカ墨のスパゲッティがあってもタコ墨のスパゲッティがないのは、墨の粘り気に差があるから。イカの墨は、ユーメラニンという黒色のメラニン色素で、脂質やタンパク質、多糖質を含みます。多糖質を多く含んでいるからこそ墨自体にどろっとした粘り気があって食材によく絡むのです。片やタコの墨は、多糖質が少なく、さらさらしており、粘り気がありません。なので吐き出すと、煙草の煙ように広がります。イカは敵が出現すると、墨を吐き出し、一気に高速移動します。粘着性のある墨で敵は呼吸ができなくなるそうです。そんな墨の性質が、料理に使う、使えないを決めているから面白く、イカ墨料理はあってもタコ墨料理がないのは、そんな事情が絡んでいるからです。
 ところで「さかばやし」では、淡路島や明石など兵庫県下から新鮮なイカが入荷予定。新鮮な生のイカは造りにするのが最も美味しく、揚げて天ぷらにしたり、焼いて酒の肴にしたりと、様々な料理で旬の5月を彩ります。イカは、誰もが好きでどのような提供をしても喜ばれる食材です。会席料理の一部や一品料理に新鮮なイカを用いる予定ですので、5月のうまいもんとしてぜひ味わってみてください。

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2024年5月

料理長おすすめ「烏賊」の一品

■淡路産烏賊と昆布素麺和え        800円
■淡路産烏賊と小芋の旨煮        900円
■淡路産烏賊のお造り         1,200円
■淡路産烏賊と野菜の天ぷら      2,000円
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