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【第140回酒蔵文化道場】ねむりのはなし(2024.10.12)<レポート有>

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≪酒蔵文化道場とは?≫

第140回
酒蔵文化道場

≪題目≫
ねむりのはなし

≪語り手≫
神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 准教授
古谷 真樹 氏

≪内容≫
みなさんは、眠りにつくまでの時間をどうやって過ごしていますか?
気づいたら寝ている?
あれこれ忙しくしていて、時間になったから寝る?
それとも、秘密の儀式をしてから寝る?
ぐっすり眠って、スッキリ起きるための光、温、香、音、酒についてお話します。

≪開催について≫
◆2024年10月12日(土) 16:00〜

講演レポート
作成:鷲尾圭司氏

≪経歴≫
古谷真樹(ふるたにまき)さん 神戸大学人間発達環境学研究科 准教授
岡山県出身、広島国際大学で臨床心理学博士を取得。
今は神戸大学で現職。
心理学の研究から「睡眠」に関心をもち、睡眠について心理学的手法によって研究しており、主なテーマは 1) 心理的ストレスによる不眠予測と予防ツール開発、2) 学校教育現場での睡眠教育。「睡眠環境学入門」「睡眠学」などを分担執筆。岡山、広島、神戸とお酒どころで暮らしてきた。

≪講演レポート≫
 睡眠に興味を持ったのは、私たちと同じ哺乳類ですが海の中にいるイルカはどのように寝ているのかという疑問でした。海の中で眠ってしまうと水面に出て呼吸することが出来ないのではないか。そんな心配をしていた時、イルカは半休睡眠といって脳の半分ずつが活動し、もう半分が眠るという仕組みを持っていると聞き、驚くとともに睡眠の役割に興味がわいたからです。
 眠りが必要な理由は、身体と脳を使って活動しているとそれぞれに疲れがたまるので、そのメンテナンスが必要なのです。身体では筋肉疲労や食物の消化吸収などであり、脳では神経のリラックスや情報処理が必要だからです。このため私たちの身体には自律神経として交感神経(アクセル)と副交感神経(ブレーキ)が備わり、交代に働いて心身の持続的な活動を支えています。
生物は日周の昼夜を経験しますので、概日リズムをもって適応しています。24時間の内どれだけ活動し、どれだけ休息するかは世代によって異なり、12時間余りの赤ちゃんと6時間程度の高齢者のように倍ほどの違いがあります。
睡眠研究では、実際に眠っている人を観察するわけですが、一晩中の観察には辛いものがありますが、そのおかげで分かってきたものがあります。眠りながらも眼球が素早く動いている状態があります。これをレム睡眠と呼び、睡眠時間の内に何度か現れます。脳波を測定して眠りの深さを図ると、眼球も動かなくなる深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠が交互に現れています。
レム睡眠では、身体の休息とともに脳のメンテナンスが行われて夢や情報処理(記憶や経験の整理)がなされます。また、ノンレム睡眠では、脳の休息とともに身体のメンテナンスが行われて成長ホルモンの分泌や免疫や代謝が進められます。成長期の赤ちゃんでは多くの新しい情報や身体の成長が重なるため、このように睡眠時間の長さが必要なのだと理解できます。
 厚生労働省は「健康づくりのための睡眠ガイド2023」に高齢者のためのGood Sleep(ぐっすり)ガイドを五つの原則として示しています。第一原則は、適度な長さで休養感のある睡眠を求める一方で、寝床に8時間以上とどまらない、という両面を指摘しています。第二原則は、光・温度・音に配慮し、良い睡眠のための環境づくりを求めています。第三原則は、適度な運動、しっかり朝食、寝る前のリラックスで眠りと目覚めのメリハリが大切としています。第四原則は、嗜好品との付き合い方に気を付けて覚醒作用や利尿作用を引き起こすカフェイン、お酒、たばこは控えめにする。第五原則は、不眠症や過眠症といった眠りに不安を覚えたら専門家に相談することを勧めています。
 睡眠の質をよくするためには、光、温、香、音、酒といった環境が大切です。光は、昼夜の概日リズムの主役で、昼間に強い光を浴びるとメラトニンという
睡眠ホルモンが増え、夜の睡眠につながります。また、活動に必要な覚醒につな
がるのがオレキシンという物質で、睡眠中に腸内の消化吸収が進み、空腹を感じ
ると覚醒して食物を求めるスイッチが入ります。注意が必要な事は60分以上の
昼寝はアルツハイマー病のリスクを増やす心配があります。
 温度は、睡眠の好適室温として夏は25℃前後、冬は18℃前後であり、暑さ寒さの感覚とはギャップがあります。また、起床時の低温は高血圧に注意が要ります。香りでは、覚醒作用があるジャスミン、ペパーミントなどや、鎮静作用があるラベンダー、セドロール(スギの木の香り)などをうまく使い分けると楽しめます。音は、入眠時には静かな音楽でリラックスすることが、睡眠中は静かな状態が望ましいと言えます。
 お酒は、適度な飲酒は入眠を早めて深い眠りを増加させますが、睡眠後半には中途覚醒や夢を見ることも多くなります。ぐっと飲んで、寝落ちするのは気持ちよいのですが、事後に反省する事態があることも忘れないでほしいです。酒量には個人差がありますので、自分に合った楽しみとリラックスするために飲むものと心得ることが大事でしょう。
 睡眠治療には、欧米ではカウンセリングと薬治療が多くみられますが、日本では自助努力が一般的でしたが、福知山線の電車脱線事故以来、睡眠外来が注目されるようになりました。
 また、健康のために早寝早起きが推奨されますが、午後9時に寝て午前5時に起きるというのも、家族との調和に配慮がいるでしょう。朝日を浴びることや朝食をとることが一日の覚醒のスイッチになりますので、朝起きの時間から逆算して就床時間を工夫されてはいかがでしょうか。