4月のうまいもん/三田牛
「廻」なるブランドが誕生して話題沸騰
兵庫県は古くから牛肉の名産地として知られています。神戸ビーフは、今や世界的にも名を馳せており、その素牛となる但馬牛も今や全国の有名牛肉の根源となっているほど。一言で神戸牛と表現していますが、神戸市内で飼育されておらず、県内産但馬牛のある一定レベルを満たしているものをそう呼んでいるにすぎません。そのため三田牛や淡路牛も品質基準がA4ランクの№6以上で神戸の長田や加古川の志方で解体すれば、神戸牛になるのです。
「ブランドを作らなくては、なかなか良くなっていかない」。そう話すのは、三田食肉公社の廣岡誠道さん。廣岡さんは「パスカルさんだ」で精肉部の売場(三田で唯一、三田牛専門の販売店)に立ち、三田牛の解体を行う三田食肉公社の社長を務めている人物です。三田牛の定義は、但馬牛の仔牛を三田食肉流通振興協議会が指定した生産農家で25カ月以上育成して三田食肉センターで解体処理した月齢30カ月以上の牛を指しています。ただ神戸牛のように格付呼称制限がないために肉質等級が最低ランクの1であっても三田牛と名乗ることができたのです。廣岡さんら三田食肉流通振興協議会の面々は、それではブランド化が進まないと考えており、三田牛をより良くするために「廻(かい)」なるブランドを設けることにしました。
「廻」は、昨年、三田の農業祭で発表された格付呼称制限です。三田市内で飼育され、三田食肉公社で解体されたもののうち、等級がA4の№7以上にその名を冠せるようにと決められています。20年前は1600頭もいた牛が、気がつけば後継者不足や、仔牛の高騰などで現在400頭になっているらしく、廣岡さん達は、「数少なくなった市内の畜産農家にやり甲斐を感じてもらうためにも格付は必要でした」と語っており、そうしなければブランドと呼べるものにならないと考えて「廻」なる呼称を設けたのです。「三田牛は、他県の牛と違ってきめが細かい。空気に接すると脂が溶け始めるほど脂肪融点が低いんですよ」と廣岡さん。そのせいか、スライスしてフィルムで覆うと、ベタっと寝てしまう特徴が見られます。一般的にピンク色した牛肉は派手さがあっていいように映りはしますが、これは肥育期間が短い証し。三田牛の、ほとんどは、32~35カ月ぐらいして出荷するものが多いので、どうしても赤く濃くなるのです。三田で飲食店を多く持ち、自身も三田食肉流通振興協議会のメンバーに加わっている福助グループの福西文彦さんも「我々にとっては三田のごちそう感覚の食材。どうせブランド化するなら神戸ビーフを上回るものでないと…」と話し、等級がA4の№7以上を「廻」としたことに対して郷土の誇りを持ちたいと話ししています。実際、「廻」が出来てから神戸牛として出荷していた畜産農家が三田食肉公社で解体するようになり、三田牛「廻」のレッテルを求め始めたそうです。「廻」が誕生して約半年、様々な所でその影響が出始めており、ブランド化は加速するものと思われます。
「さかばやし」では、今月は三田牛を“今月のうまいもん”に指定して、三田牛の本家本元である廣岡さんの「パスカルさんだ」から直接仕入れて献立に登場させます。一品料理に用いたり、4月26日夜には“旬を堪能する会”にて「三田牛“廻”のすきしゃぶと生酛純米酒を楽しむ会」を企画しています。また、さかばやしの会席で三田牛「廻」を楽しみたいという方には、四月の酒心館会席の主菜「黒毛和牛とアスパラのすきしゃぶ鍋」の牛肉を三田牛「廻」に追加料金でグレードアップすることができます。ぜひこの機会に話題の三田牛を堪能してみてはいかがでしょう。
(フードジャーナリスト・曽我和弘)