1月のうまいもん/幻の魚と称されるクエ
クエは、体長が60cm以上になり、稀に1.2mに、重さが30㎏を超えることもあるという大きな魚です。スズキ目ハタ科の魚で、淡い緑褐色の体に黒っぽい横縞模様があるのが特徴。南日本から台湾や南シナ海に棲むとされています。このクエが食卓に登場したのはバブル期の頃です。1980年代半ばあたりから起こったグルメブームは、ティラミスやナタデココなど色んな食べ物をメジャーにしましたが、このクエもその一つです。それまでは漁場でしか食べられていない魚だったのですが、冬のフグに対抗すべく登場し、淡泊な中にも脂が乗った味わいが指示されて一躍冬の食材として名乗りを挙げました。
クエを観光資源として売り出したのは和歌山県。日高郡日高町には、昔からクエ祭りなるものがあり、地元では有名な魚だったそうですが、それをグルメブームに便乗させて「日高に来てクエを味わう」とばかりにPRしたのです。日高のクエ祭りは、阿尾の白(しら)鬚(ひげ)神社で行われる無形文化財です。大漁祈願と海上での安全を祈って江戸時代初期に始まったといわれています。祭りに用いるクエは、塩漬けをして天日干しにし、身を出して皮を縫いつけて丸太にくくり、御輿代わりにして担ぎます。それを神社に奉納しようとするのですが、そうはさせまいと神社側が防戦。その激しく争う様を見ようと沢山の見物客がで賑わいます。
グルメブームの俎上に上る前から九州では「アラ」と呼んで好んで鍋物の具材に用いられてきました。クエが美味しくなる冬場に、大相撲の九州場所が始まるために関取らが率先してそれを食べていたのです。彼らは「アラ炊き」と呼び、クエ鍋をいち早く味わっていたので、クエブームの先陣を切っていたと言っても過言ではないでしょう。
クエは、幻の魚と呼ばれるほど獲るのが難しく、漁師が沖に出て一週間で一匹も釣れないことも度々あるようです。日高では、クエ鍋を中心に刺身や唐揚げなどを出し、冬場の旅館の売りにしていますが、聞けばその大型の個体に季節感の差はないのだそう。むしろ産卵後にエサを沢山食べようとする夏から秋の方が旨いと話す人もいるくらいです。ところが、福岡の「アラ炊き」や「クエ鍋」のように鍋料理の素材として目立たせたために、いつのまにか冬が旬と思い込むようになりました。
幻の魚と書きましたが、実は和歌山県では養殖に成功しています。“近大マグロ”で有名な近畿大学がその研究を行っており、その結果から和歌山はもとより尾鷲や長崎、佐賀でも沿岸の生簀を利用して養殖のクエが育てられています。養殖ものは、どんな魚でも脂が強いのですが、クエも同じ。その脂の乗り方からまだまだ天然ものには及ばないようです。それでも価格が高いために、価格の問題を解消すべく養殖を用いる店も多くなって来ました。
今月の「さかばやし」のテーマ食材は、クエ。しかも天然ものです。クエは大きな魚ゆえにある程度の客数のあるお店でないと提供できません。小さなお店では提供したとて余ってしまうからです。幸い「さかばやし」では、毎冬クエを提供しているのでお客様もそれがメニュー化されていることをよくご存知なのです。今月も「旬を堪能する会」(1月26日に実施予定ですが、すでに満席)を1月中の一品料理や、酒心館会席などの中にも提供することにしています。「クエを食べたら、他の魚を喰えん!」という台詞が本当かどうかを一度確かめてみられてはいかがでしょうか。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
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おすすめの一品
・くえの造り 1,800円
・くえの唐揚げ 1,600円
*仕入状況により、内容が変更となる場合がございます
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