5月のうまいもん/丹波・婦木農場の有機野菜
野菜は作り手によって味が変わる!
最近、地野菜がやたらと話題にのぼります。これは野菜にとって大事なアイテムがブランド名よりも鮮度だと理解される方が多くなり、これまでのような農業大国(北海道や信州)のものより、近場の産地のものの方が鮮度が良いと近郊の農産物を選ぶようになってきたことによります。
我が兵庫県は、南に瀬戸内海、北には日本海と魚介類の豊富さには事欠きません。それに加え、但馬牛や神戸牛があって牛肉もよく、おまけに野菜もいいものが獲れるという、まさに食材天国なのです。素材の良さを追求する上で、やはり重要なのは人。作り手の考えや手法で、いいものもできれば、反対にそうでない産物にもなるのです。
丹波市で農業を営む婦木克則さんは、農業の世界ではその名を轟かせるほどの名人。今ほど無農薬野菜が注目されていなかった30年前から取り組んで来た人物で、「婦木農場」で産された野菜や米は、美味だとの噂が色んな所で聞かれるほどです。婦木さんは、「米作りをし、野菜を育て、乳牛を飼う昔ながらの農家」と謙遜しますが、その凄さは産物を味わえば一目瞭然。野菜の味が深く、食感もしっかりしているのです。
「婦木農場」は、丹波といっても町に近く、春日ICからも車ですぐの場所に位置しています。約1.5haの土地で年間に50種類以上作っているといいますから、少量多品種を産する農場といえるでしょう。牛舎から出る牛糞を堆肥に使い、土作りをします。基本的には無農薬栽培で、自然の力をいかして野菜作りを行うのです。無農薬栽培と、言葉では簡単に表現しますが、薬を蒔かぬ分、病気にも気を配らねばならず、雑草も生えるために手作業で草抜きを行わねばなりません。その苦労たるや大変で、都会に住む私達が「無農薬でなければ」なんて安々と口にできないほどなのです。
以前、「神戸酒心館」の久保田常務と「婦木農場」を訪問したことがあります。「うちは野菜や米しかなく、凝ったものもできませんが…」と出して来られた奥さんの手料理が抜群に美味しかった。単純にサラダや煮物にしたもの、生のトマト、おにぎり…と、そのいずれもがごちそうで、都会の会席料理や西洋料理を凌ぐレベルの味だったのです。聞けば、婦木さんは畑で家族が丸かじりできる基準で作っているとのこと。まさに安心安全。しかも味がいいときているので料理に用いるのには最高でしょう。「さかばやし」の加賀爪料理長に聞いても「小さな人参は甘さがあって美味ですし、味は濃いものが多い」と高い評価です。先日も「さかばやし」にて婦木さんの育てたスナップえんどうや、うすいえんどう、さんど豆を食べましたが、そのいずれもが市販の野菜では味わえないほど、しっかりとした味わいで食感もよく、改めて婦木さんの真摯な野菜作りを実感した次第です。
さて、「さかばやし」では5月の献立に「婦木農場」の野菜を用います。会席料理をはじめ、一品料理でもお楽しみいただく予定です。また5月26日(PM7:00〜)には婦木さんを招き、「丹波婦木農場初夏のとれたて野菜と生酒を味わう会」と題した食事会を開催します。テレビや新聞、雑誌などでも取り挙げられるほど注目の「婦木農場」の野菜なので、ぜひこの機会に味わってみてください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)