4月のうまいもん/春に山菜を食べるのは理にかなっている
春は、苦みを味わうべき
俗に春は苦みを食べるといわれています。根菜類を中心とした冬野菜が終わりを告げ、芽吹く季節の到来を心待ちにする春は何となくうきうき気分に_。それとともに食欲もグンとアップしそうです。ところが食材に目を移すと、これといった野菜がなく、大半の農家も夏に旬を迎えるであろう農作物の準備をする頃なので、巷には筍ぐらいしか売りになる野菜が見つかりません。そこで昔の人が目をつけたのが山菜だったのです。
昔は今ほど身体のメカニズムがはっきりわかっていなかったと思われますが、昔の人が食したように春の山菜を摂ることは、実に理にかなっていたのです。人は栄養を蓄えて冬場を乗り切ろうとする習性があります。そのため冬場はどうしても脂肪がつきやすいのです。これが春になるにつれ、新陳代謝が活発化し、今まで蓄め込んでいた脂肪や老廃物を排出させようとします。こんな時、苦みのある食材は、大変有効で、特にタラの芽や蕗の薹(ふきのとう)に多く含まれるアルカロイドは、新陳代謝を促し、消化へと導く働きがあるのです。そこで昔の人は「春には苦みを盛れ」と言ったようで、知ってか知らずか、春野菜特有の苦みには解毒作用があり、新陳代謝を促す働きがあると周りに知らせていました。
人の舌には、甘・辛・酸・苦を見分ける力がありますが、そのうち苦みは奥の方で感知するため、その良さ(苦い味を旨いと思うこと)となると、年輪を重ねてからでなくては分からないといわれています。子供が甘いものを欲するのは、それが最もわかりやすいからで、子供が苦いのを嫌うのもそう考えていくと理解できます。ビールを代表例とするように苦い=旨いと感じるのは、大人の証拠。だから人は歳を取るにつれ、山菜をありがたがるように思えてなりません。
さて春の山菜というと、誰もが頭に描くのが蕨(わらび)に、こごみ、独活(うど)、タラの芽、蕗の薹など。山菜ではありませんが、菜の花も春野菜で、これまた苦みがあるものです。昔は春の野山で蕨を採ったなんて話を聞きましたが、土筆(つくし)採りもそうですが、蕨採りもなかなか目にしなくなりました。蕨というと、わらび餅に代表されるようにその根には澱粉が多く含まれるために、それを使って餅にします。蕨は、地域によって異なりますが、本州では3月中旬からGWあたりに旬を迎えます。
こごみは、正式名称をクサソテツというそうですが、冬の間に地下の株が育ち、春から渦巻状の新芽が出て来ます。食用にするのはその新芽部分です。一方、独活も春素材。「うどの大木」なる言葉があるので木だと思っている人もいるそうですが、独活も山菜の部類です。大きくなると、食用にならず、かといって木に使うわけにもいかないことから、大きく役に立たないものを「うどの大木」と呼ぶようになりました。独活には山独活と白独活がありますが、山独活はアクが強く、天ぷらやぬた、酢味噌和えに適しており、白独活はアク抜きするとサラダにも使えます。これまた春の山菜のタラの芽は、人気食材の一つで、ほのかな苦みがあり、もっちりとしているので使いやすい素材です。山で採られるものは概して男(お)ダラと呼ばれるもの。棘がなく、ハウスで栽培される女(め)ダラとは少々趣が異なるので、できればこの時季は天然ものの男ダラを食べたいと思うのは、我がままでしょうか。
さて4月は「さかばやし」でも山菜を沢山取り入れた料理をご提供します。会席料理内や一品料理にもそれらが盛られて来ますので、苦みを味わいながら春という季節をぜひご堪能ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)