1月のうまいもん/クエが幻の魚と呼ばれる所以 (ゆえん) は…
■クエを食べたら他の魚は喰えん
1月に入ると、「初鍋はクエで」という声を耳にします。クエは主に西日本に棲む深海魚で、夏場は深い所で生活しているのですが、冬が近づくと水温が下がるために陸近くまで上がってくるという習性を持っており、それを漁師が釣り上げるのです。ただ、釣るにはかなりテクニックを要すらしく、名人と呼ばれる人でも月に何匹かしか釣れないことがあるそうです。
バブル期ぐらいまでは、クエはメジャーな魚ではなく、和歌山や九州で細々と食べられていました。その頃は関取の間で話題にのぼる冬の味覚で、彼らは九州場所の時にアラの一本炊きと呼ばれる鍋を好んで食していたのです。元来、魚は地域によって呼称が変わるのですが、どちらかというとクエは関西圏の呼び名で、佐賀県や福岡県ではアラと呼び、三重ではマス、伊豆諸島ではモロコというように変化していきます。つまり九州場所が開催される福岡だからアラ炊き、もしくはアラ鍋と呼んでおり、それを郷土料理的に関取にふるまっていたのです。それが一般的に知られるようになったのは、バブル期の前後にグルメブームが起こったから。この時、関西ではフグに代わる鍋物としてクエ鍋にスポットが当たったのです。淡白なてっちりに比べ、クエは脂を有すのでそれとは違った風味が楽しめます。淡白すぎるフグを嫌う人が、こぞってクエを食べるようになりました。これに乗じて和歌山県でも大々的にクエをPR し出したために、一躍冬の味覚の主役にまで名乗りをあげるようになったわけです。
和歌山や三重で観光資源にまでなったクエは、押しも押されもせぬ超高級魚。ただ近年では近畿大学水産研究所がクエの養殖に成功しており、その技術で育てられたクエは天然魚より安価な値段で取引されるようになってきました。養殖でも同じような味わいはあるのですが、脂が乗りすぎているために鍋にした時に煮汁が濁り、クエ本来の旨さ( 天然クエの味) にまで至っていないと指摘する人もいるようです。
そもそもクエは、体長があり、2m近くて150kg 前後にまで成長する大きな魚。身は透明感があって皮にゼラチン質に似た甘みを有しています。この大物をブツ切りにして鍋に入れると、繊維質のある身がぎゅっと締り、えもいえぬくらいの味になるのです。「クエを食べたら、他の魚は喰えん」とは、和歌山日高町周辺の漁師の言葉ですが、このダジャレがうまくマッチするほど旨い魚だといえるでしょう。( 文/曽我和弘)
「初鍋はクエで」のフレーズでもないでしょうが、「さかばやし」では天然のクエを今月の酒心館会席や一品料理でお楽しみいただいております。また1月23 日( 金)に開催する「旬を堪能する会」ではクエをテーマに数々の料理をご賞味いただく予定にしています。脂が乗り美味しくなった旬のクエをこの機会にぜひご堪能ください。
料理長 加賀爪 正也