3月のうまいもん/酒粕料理
灘の酒粕文化を継承する「さかばやし」の酒粕料理
毎年2〜3月になると、酒粕プロジェクトが実施され、兵庫や大阪の数店舗では、「福寿」の酒粕を使ったオリジナル料理が発表されます。この催しは、今年で9年目を迎えました。参加店舗は拡大し、和歌山県のイタリア料理店「イルテアトロ」や大分県・中津のスイーツ「お菓子工房くりの木」も参加しており、例年以上の盛り上がりを見せています。同プロジェクトは、今からおおよそ10年前に酒粕の流通量が減り、料理や素材の多用化も伴って家庭での酒粕料理が影を潜めたのがきっかけ。このままでは、灘に脈々と伝わる酒粕文化が消えてしまう恐れがあると、神戸酒心館が旗振り役となって始めた取り組み。当初は、有馬温泉「御所坊」と「さかばやし」の酒粕鍋対決という小規模な取り組みで始まりましたが、粕汁などの酒粕料理が関西独特の食文化を表すことから、粕汁や酒屋鍋も郷土を代表する食文化だとわかり、神戸の店々が翌年からこぞって参加し始め、やがてその波が関西全域を覆ううねりへと変化して行いきました。1月下旬に酒粕プロジェクト記者発表会を毎年行い、各店舗が酒粕への新たな使い方を発表するため、今や酒粕はこの地域のみの食材ではなく、全国にその調理法を轟かすまでに至っています。その昔は、和食に限られていた食材が、今では西洋料理、中華、スイーツ、カクテルまで波及しているのは、酒粕プロジェクトの効果だと言ってもいいのではないでしょうか。
「さかばやし」では、蔵元の日本料理店として酒粕料理にこだわってきました。かつて蔵人が暖を取るために食べたといわれる「酒屋鍋」は、冬場の名物としてお客様から多くの支持を得ています。また、粕汁も「福寿」の酒粕の味わいを生かしつつ、蔵元ならではの一品として会席料理などでも提供しています。毎月20日は〝粕汁の日″と定め、冬場だけでなく夏場にも粕汁が提供できるように一年中準備しているのも蔵の料亭ならではの試みでしょう。
文化継承のためには若い人達の参加が不可欠と考え、6年前から大阪樟蔭女子大学の学生とコラボし、新たな酒粕料理を創出して来ました。同校学芸学部ライフプランニング学科の「フードメディア演習」では、酒粕文化の継承を促し、授業でその使い方を女子大生が考案しています。その授業の中から、今年誕生したのが「割烹明石焼き(里芋饅頭)」です。この料理を考案したのは、同校3年生の小西眞帆さん、中山桃寧さん、土谷優理子さんのグループ。彼女達はローカルフードに着目し、神戸で産される里芋やホウレン草、明石のタコ、淡路島の玉葱、徳島の蓮根などを用いながら里芋饅頭を作りました。兵庫県に玉子焼き(明石焼き)がB級グルメとして存在することから、それに見立てて明石焼き風にして里芋饅頭を提供することを思いついたようです。だしには、酒粕を溶かせ、粕汁のような味わいです。そこに揚げた里芋饅頭を浸して割烹料理風に昇華させました。彼女ら達のレシピを基に料理を仕上げた「さかばやし」の大谷直也料理長も「構成がユニークで、あまりさわらずに商品化しました。里芋饅頭は揚げているのですが、酒粕と油は合うので、理に適った料理になっています」と評価も上々。「さかばやし」では、学生考案の「割烹明石焼き(里芋饅頭)」を平日限定で3月まで提供します。
定番の「粕汁」や「酒屋鍋」とともに、こちらの学生が考案した料理も酒粕プロジェクトの一品として紹介していますので、ぜひこの機会にお召し上がり下さい。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめ「酒粕料理」の一品
■帆立貝の酒粕和え 880円
■粕汁ちー寿(チーズ) 1,100円
■粕汁小鍋 1,400円
■粕汁おでん 1,600円
※料理長おすすめ「酒粕料理」の一品は事前にご予約ください。
大阪樟蔭女子大学の学生考案「酒粕料理」
■「割烹明石焼き(里芋饅頭)」 1,000円
※酒粕プロジェクト料理は平日限定2日前の要予約
※写真はイメージです