9月のうまいもん/神戸産のいちじく
食用にしている部分は、果実ではなく、実は花だった!?
「9月は、いちじくをテーマに旬の会を催します」、そう言うと、女性から「わっ!」と喜びの声が発せられました。それほど、いちじくは女性に人気のある食材。コロナ禍以前は、いちじくバスツアーなどを企画する旅行代理店もあって、夏から秋にかけては、 “売り”にしやすい果物と言っても過言ではありません。女性にそれだけ支持される所以は、その甘さもさることながら栄養価が高く、ヘルシーな食材だからでしょう。いちじくは、昔から〝不老長寿の果物〞と例えられており、食物繊維やミネラル分が豊富。おまけにタンパク質を分解する酵素が含まれているため、食後のデザートにはぴったりなのです。日持ちがしないいちじくを、ドライフルーツにするケースをよく目にしますが、こうすると水分が減る分、栄養素が濃縮されます。生のいちじく1個分と比較すると、食物繊維が約5.6倍に、マグネシウムや鉄分は約4.7倍に、カルシウムに至っては約7.3倍までアップするそうです。洋菓子や西洋料理で、この時季にいちじくを用いるのが、何となくわかってもらえるでしょうか。
ところで、「さかばやし」でも日本料理というジャンルながらも今月は、いちじくを〝うまいもん〞として取り挙げ、会席料理の一部や一品料理に用いることにします。「さかばやし」で使用するいちじくは、できるだけ近隣の産物のもの、特に神戸市で採れたいちじくを使いたいと考えています。いちじくの産地を、全国的に見ると、1位と2位を和歌山県と愛知県が競っており、次いで3位が兵庫県、4位が大阪府となっています。それくらいいちじくは、関西に根づいたもので、日持ちがよくないために都市近郊型農業の産物といわれているぐらいなのです。現在、日本で一番多く栽培されているのが、「桝井ドーフィン」なる品種で、この発祥が兵庫県川西市です。広島県佐伯郡宮内村出身の桝井光次郎さんが、明治41年に米国よりドーフィン種を持ち帰り、育苗したのが事の始まり。初めは夏果しか採れない「ビオレ・ドーフィン」だったようですが、その後本来のドーフィンを取り寄せて導入すると、夏果と秋果ができる「ドーフィン」が実りました。日本では、以前の夏果だけのものと区別するために「桝井ドーフィン」と呼ぶようになりました。神戸市が産地なのも、その川西の影響を受けてのもので、今では、川西・神戸と羽曳野(大阪)が関西の三大産地といわれるようになりました。
いちじくは、イラサク目クワ科イチジク属の果実です。6月下旬~8月上旬に旬を迎える夏果と、8月~10月上旬が旬になる秋果にわかれます。私達は、実の中にある白いプツプツした部分を果実だと思い込んで食べていますが、実はそこは花。実と思われる中に花を咲かす変わり種なのです。つまり食用としている部分は、実ではなく花ということ。いちじくを漢字にすると〝無花果〞と書くのは、外に花をつけないことを意味します。中国では、いちじくを〝映日果〞と書き、インリークオと呼びます。これは、いちじくが13世紀頃にペルシアから中国へと伝わっており、ペルシア語の「アンジール」を音写して〝映日〞と記し、そこに〝果〞を補足したといわれています。日本には、17世紀に入って来たのですが、中国語の〝映日果〞が転化して、いつしか〝いちじく〞と呼ぶようになったようです(諸説あり)。
さて、神戸産のいちじくは、主に西区で栽培されており、まさに地産地消の産物。そのため鮮度のいいものが入荷されます。今月は神戸産の「いちじく」を仕入れ、会席料理や一品料理などでお楽しみいただけます。ぜひ、この機会に神戸の名産「いちじく」をご賞味ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2022年9月
料理長おすすめの「《神戸産》いちじくの一品」
■無花果胡麻味噌掛け 1,100円
■無花果の揚げ出汁 1,200円
■無花果のコンポートと酒粕アイス 1,400円
※おすすめの一品は事前のご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
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