4月のうまいもん/筍
「筍」は、野菜の中でも春を最も感じる食材です
飲食店のイベントは「動いている素材しか、集客できない」との定説があります。動いている素材とは、牛・豚・鶏・魚を指します。つまりこれらの食材を用いて食のイベントを開催しないと、人は魅力を感じないというのです。野菜は、いくら健康にいいから摂取しましょうと声高にしても、野菜を主とした食事イベントは集客がしにくいと言われます。そんな野菜の中で、珍しく集客力があるのが「筍」ではないでしょうか。ハウス栽培の発達によって季節感が薄れていく野菜にあって、「筍」は旬を感じる素材といって過言ではないでしょう。
「筍」は当然ながら九州より出始め、四国などの産地を経て近畿で採れ始めます。人は、飲食店で筍料理を目にすると、春を実感するようです。つまり、「筍」が春の証しとなり、日本列島を縦断。丁度、4〜5月に近畿産の「筍」が出回り始めるので、春の訪れを感じさせてくれます。
「筍」は、読んで字の如く、竹の子供です。竹の地下茎から出て来る若い芽のことで、それが出始めるのが春になるのです。「筍」は、地上へ芽が出るか、出ないかのうちに掘り出さねばなりません。産地には、それを見つける名人がおり、彼らが筍のありかを探し出して世に流通させるのです。「筍」の成長はかなり速いと思ってもらっていいでしょう。10日で数十cmに達し、放っておくといつしか1mを超えてしまって食用に不向きになってしまいます。よく旬は十日を指すと言いますが、「筍」はその代表例。10日間で伸びてしまうので「旬」に竹冠をつけて「筍」なる字を考え出しました。ちなみに採れた「筍」は、部位ごとに使い方が異なります。穂先は、煮物や和え物に向いており、先端の姫皮部は、吸物・酢の物に用いるのがいいとされます。中心部分は、天ぷらや炒め物、それに煮物にも用いて、ここは食感を楽しみながら味わいたいものです。
よく日本料理店では、“朝掘り筍”と記されており、それを謳って仕入れしているところがありますが、実は「筍」は鮮度が勝負。朝採った筍をビニール袋に入れておくと夕方には水が一杯出て、たけのこが浸かるぐらいの状態になっているのです。この水分が旨みにあたり、水分が抜け切ってしまうと、「筍」は鮮度を失い、旨みが半減します。そのために朝掘りの「筍」を店では仕入れようとし、その鮮度の証しとしてメニューに“朝掘り”と謳うのです。近畿では、「筍」は乙訓や水間のものが有名ですが、かつて「蔵の料亭 さかばやし」では神戸の筍を仕入れて食事会を催したことがあります。「神戸で筍が採れるの?」、そう思っても不思議ではなく、筍山自体はありません。ただ西区の山で筍が採れるため、JA兵庫六甲の協力を得てその企画を実行したのです。さすがに西区と東灘区ですから距離はそんなになく、その分、鮮度のいい「筍」が送られて来ました。野菜は産地もさることながら鮮度が一番なので、名品・乙訓産より神戸・西区産の方が旨みもあってかなり評判のいい食事会になったようです。
さて「さかばやし」では、今年も「筍」の産地から質の良いものだけを選び会席料理の一部や単品料理に用います。春の「うまいもん」といえば、やはり「筍」。この厳選した食材を揚物、煮物、焼物など様々な料理に用いますので、ぜひこの機会に「蔵の料亭 さかばやし」の筍料理をお召し上がりください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめ「筍料理」の一品
■筍と小松菜のお浸し 750円
■筍の天ぷら 1,600円
■黒毛和牛と筍の小鍋 3,000円
※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。