11月のうまいもん/婦木農場の野菜
「婦木農場の農作物が支持される理由(わけ)」
食の分野で取材を重ねていると、最終的には人によるものだということがよくわかります。海で獲れる魚も闇雲に流通させるわけではなく、やはり漁師の技術や漁港で値づけする仲卸しの目利きに左右されて良品が流通されてきます。土地を耕し、種を蒔いて作物を育てる農業は尚更人による影響が大きいと思われます。年に一度は「さかばやし」で旬の会の「テーマ食材」として取り挙げる「婦木農場」は、農作を行う婦木ファミリーの情熱がしっかり伝わるほど、野菜や米が素材の良さを物語っています。百聞は一見にしかずとはよく言ったもので、それらを口にする消費者が一番よく知っており、「婦木農場」の野菜をテーマに旬の会を催すと、すぐに満席になるほどの盛況ぶり。婦木ファミリーの長である婦木克則さんも同食事会に同席してくれるので余計に人気があるのだと思われます。
農家にルーツを尋ねるのは野暮な事と知りつつも婦木克則さんに聞いてみると、「うちは先祖代々、丹波の地で農家を営んでいます」との話でした。最も古い記録には宝暦4年(1754)に10代前の当主が記載されているそうで、その時代にはすでに婦木克則さんの先祖が丹波・春日の地で農作物を育てていたことがわかります。「福寿」も宝暦元年(1751)から酒造りを行っており、ほぼ同年代に、「丹波」と「灘」で10月の旬の会の礎が築かれていたのです。宝暦年間といえば、9代将軍・徳川家重の治世。田沼意次や平賀源内、杉田玄白が活躍していた頃で、少々古い話になりますが、NHKの名作ドラマ「天下御免」の時代だったようです。
ところで「婦木農場」では、「今、農業はおもしろい!」というキャッチフレーズを掲げて丹波の自然派農業を訴求しています。今でこそ無農薬栽培や有機栽培は、一般的な市民権を得ていますが、婦木克則さんが志した約30年前は、効率主義全盛の時代で、いずこも農薬を仕入れて使用するのが当たり前だったようです。婦木克則さんは、そんな時代の流れに逆らうように農薬を使わず安心安全な農業を目指しました。そんな栽培法を支持したのが消費者運動をしている人達でした。彼らは、低温殺菌の牛乳がきっかけで「婦木農場」を知って、ここに安心安全な米や野菜があるのに気づき、販売ルートを作ってくれたのです。こうして「婦木農場」の農作物は、徐々に消費者の間に広がっていきました。
「婦木農場」は、1.5haの土地に年間約100種以上の野菜を育てています。都市近郊型の農家で、少量多品種を産しているのが一つの特徴かもしれません。秋には米は勿論のこと、大納言小豆に大豆、さつまいも、里芋、かぶ、ブロッコリーができるそうです。それに丹波といえば有名な黒豆の枝豆もこの季節には出荷されてきます。「婦木農場」のホームページを開いてみると、"新米出荷開始"と掲出されており、同農場の一つの特徴でもある「米」ができたことを告知しています。「婦木農場」といえば、紙マルチの手法を用いた米の栽培が魅力です。田に段ボールの古紙を密着させて栽培するそれは、雑草が生えにくい土壌を作ります。雑草が少なくなるということは、それだけ除草剤を散布しなくて済みます。そのため、「婦木農場」のホームページには、"紙マルチ栽培の農薬不使用コシヒカリ。ふきさんちのコシヒカリ除草剤一回使用"と除草剤の少なさを謳っているのです。便利だからといって農薬に頼らず、自然の力を活かして手間暇かけて作る米や野菜は、ダイレクトに味に反映されています。だから婦木さんの米や野菜は、こだわりを持つ消費者から支持を得ているのでしょう。
さて、「さかばやし」では、10月のうまいもんとして「婦木農場」の野菜を仕入れ、会席料理の一部や一品料理に用いています。ぜひこの機会に丹波「婦木農場」の野菜の美味しさにふれてみてください。
(フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめ「婦木農場の野菜」の一品
■婦木農場の枝付き黒枝豆 1,100円
■婦木農場の採れたて秋大根 980円
■婦木農場の里芋の唐揚げ 900円
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