4月のうまいもん/桜鯛
「食べるだけでなぜかめでたい"桜鯛"」
春になると、気候のせいか、なぜか街が華やいで見えます。街を闊歩する人達も春の陽気とともに行動的になるようにさえ思えるのです。何はともあれ、春はめでたいと言いたくなりそうなので、今月は"桜鯛"を旨いもんとして取り挙げることにしました。日本人は昔から語呂合わせが好きなようで「めでたい」と称し、祝い事に鯛を用いてきました。鯛は、スズキ目タイ科の総称で、クロダイ・キダイ・アカレンコなどがありますが、一般的には真鯛を指すことが多く、「真鯛こそ、魚の王様」と言う人が多いのも我が国の特徴でしょう。鯛を魚の王様とみなすのは日本独自のようで、フランスでは釣れた場合は外道と言われ、あまり評価が高くないからです。ところが、日本では赤い色がめでたいとされ、七福神の恵比須様は鯛を釣り上げた姿になっているのです。江戸時代には、将軍家では"大位"とし、宮中でも"高位"と書いてそれを持て囃して来ました。
春になると、日本人は桜の花見をしてきた歴史がありますが、その頃に貴ばれるのが"桜鯛"です。桜鯛を調べてみると、「桜の花が盛りの頃に産卵のため内湾に群集する鯛」と記されています。瀬戸内海では、特にこの季節の鯛を好むようで、花見鯛とも呼んで日本代表の花・桜を重ね合わせていいイメージで伝えています。産卵期を迎える前の真鯛は、ピンク色に色づくため、その色合いが"桜"を連想させるとの説もありますが、私は春=気候の良さ=桜の三つのイメージを重ねて名づけているように思えます。
真鯛は雌雄同体の魚で、温かい地域では2月頃から産卵期を迎えます。瀬戸内で"桜鯛"とも"花見鯛"ともいい、春の真鯛を持て囃すのは、4~5月頃が産卵期で、美味しいとされているからでしょう。魚は産卵が終わるとエネルギーを使い果たし、栄養も子に与えてしまった後なので身が痩せてしまいます。その後、沢山食べて徐々に太って行き、秋を迎えるのです。鯛には旬が二回あるといわれ、もう一つの旬が太って脂が乗った秋、つまり"紅葉鯛"と呼ばれる季節がそれにあたります。実は、紅葉鯛の方が旨いという美食家は多いようで、この季節の鯛はどんな料理にも向くとされ、色々な調理法で食されます。一方、桜鯛は卵や白子が入っていることがあり、それがこの時季の特徴ともいわれ、卵や白子を好む人もいます。紅葉鯛に比べると、脂が少ないので蒸し物や煮物、汁物に向いているようです。
一嘗三嘆(いっしょうさんたん)なる言葉は、俳人・正岡子規が清水則遠に宛てた手紙の中に出てくるもので、彼は「松山の鯛料理を一口食べると、何度も感動するほど美味しい」との意味をこめてそう表現していたのです。松山も神戸も瀬戸内海地域には違いありません。瀬戸内の東側で獲れた播磨灘の鯛をこの時季に味わい、我々も"一嘗三嘆"と誰かに伝えたいものです。
さて「さかばやし」では、4月に播磨灘や瀬戸内で獲れる"桜鯛"を今月の旨いもんとして献立に用いることにしました。会席料理の一部にもそれを用いますし、一品料理としても提供する予定となっています。ぜひこの機会に、「何はともあれめでたい」という桜鯛をご賞味ください。
(フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめ「桜鯛料理」の一品
■桜鯛の桜蒸し 650円
■桜鯛の南蛮漬け 500円
■桜鯛の昆布締め 煎り酒ジュレ掛け 1,000円
■桜鯛の鯛の子と筍煮 1,200円
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