9月のうまいもん/神戸のいちじく
名産地の名にかけて熟したものをご提供します
「神戸のいちじくがいい」と話すとびっくりする人がいます。「長年神戸に暮らしながらそんな話は聞いた事がない」と言う人まで。神戸は海外文化を移入して来て、何となくお洒落な印象を受けます。食文化も西洋料理やスイーツが中心で、どことなく土の匂いがする農業とは程遠いイメージを受けるのでしょう。ところが神戸市は、関西でも名高い農産地で、殊に春菊・ホウレン草などの軟弱野菜は有名な特産品。他地域からその技術を見学に訪れる程優秀な産地なのです。果樹も北区の二郎苺や西区の太秋柿などが有名。そんな中でもいちじくは、かなり知られた特産品です。全国的に見てもいちじくは愛知・和歌山・兵庫・大阪が産地で、兵庫県下では神戸と川西が生産地として知られています。軟弱野菜もそうですが、いちじくも都市近郊型農業に適した産物。日持ちしないためどうしても消費地が近くに必要なのです。
神戸市内でいちじくを多く栽培しているのは、何といっても西区。神出・岩岡・平野・伊川がその産地で、60軒もの農家がいちじく栽培を行っています。「神戸西いちじく部会」の部会長である西馬良一さんによると、神戸市のいちじく農家が行っている一文字整枝という栽培法が今や主流となっており、全国へと広まったそうです。いちじくといえば、桝井ドーフィンの栽培から昔は川西が主流でした。川西では開芯型栽培を行っていましたが、神戸市西区の農家が葡萄栽培のように畝に沿って枝を立てて行く一文字整枝なる栽培法を開発してから、この方が収穫の時期調整がしやすく、仕事もやりやすくなると、やがて主流になり、広がって行きました。いちじくは、同じ木でも下から実をつけて行き、熟すのに90〜100日ぐらいかかるそう。前出の西馬さんも「一本の木から22〜23個の実が成ります。2個ずつ熟して行き、次の実が熟すのに6日かかります」と話していました。栽培には夏の天候が左右するらしく、雨が天敵。降雨によって病気が出たり、水っぽくなったりするそうです。おまけに熟した時に一雨降れば、皮がズルズルになって出荷できなくなる事も。更にいえば、春先の寒さも影響。栄養分を吸う時に寒ければ、きちんと栄養が行き渡らないようです。「とにかく栽培は大変」といちじく農家の人が教えてくれました。
いちじくは、完熟が美味しく、ぎりぎりまで収穫を待つかが勝負の行方を決めます。だから農家も収穫時期には、昼夜逆転の生活を強いられると言います。「神出では、午前0時から3時まで実を採り、それを箱詰めして朝7時には出荷作業を終えるのです」と西馬さん。我々は市場に並んだ「朝採れいちじく」を喜んで求めますが、そこに出荷するには真夜中の作業が必要だと、西馬さんの話を聞いてわかりました。
いちじくは、漢字で書くと「無花果」に。これは花を咲かせず、実をつけるように見える事から由来したもの。一見、花がないように思われてはいますが、実は中にある粒々が花で、外側からは見えないという変わり種なのです。いちじくの特徴は、上品な甘みと柔らかな酸味。その旨味には、果糖とクエン酸が影響しています。いちじくは栄養価の高い果物で、ペクチンなどの食物繊維が腸内環境を改善したり、コレステロールの低下にも役立つと聞きます。欧米では生よりもその使い道の多さから乾燥いちじくを好むのですが、日本ではやはり生食に勝るものはありません。西馬さんに「最も旨い食べ方は?」と聞くと、「それは新鮮なものにかぶりつく事ですよ」と笑っていました。我々は皮を剥いて食べますが、西馬さんは「熟したものは皮ごとかぶりつくのが旨い」と言います。皮にはアントシアニンが沢山含まれており、その周りには甘みがあるのがその理由。それに「熟しているから皮がとろける」ようです。
さて「さかばやし」では、神戸市の特産品であるいちじくを仕入れ、9月のテーマ食材として、会席料理や一品料理でお楽しみいただきます。また、9月24日(火)には、「神戸いちじくとひやおろしを楽しむ会」を開催します。ぜひこの機会に神戸のいちじくをお楽しみください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめの「神戸産いちじく」
■神戸産 無花果白衣掛け 900円
■神戸産 無花果胡麻味噌掛け 900円
■神戸産 無花果の揚げ出し 1,000円
■神戸産 無花果と鯛の昆布締め ジュレ掛け 1,350円
※おすすめの一品は前日15時までのご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。