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9月のうまいもん/但馬・小代の鹿肉

今月のうまいもんさかばやし

おじろ鹿のしゃぶしゃぶ01c
クセがなく、ヘルシーで高タンパクな小代の鹿肉
 
「さかばやし」で9月に鹿肉料理を提供するようになって早や7年近くになります。発端は、兵庫県の獣害問題から。但馬地方で鹿が畑を荒らすことから、その対策として捕獲し、それを食用に利用できないかと発表したことによるもの。発表会自体は、フレンチでの利用を促したものでしたが、鹿肉を日本料理で表現してみてはと、私が「さかばやし」に推薦したことがきっかけでした。以来、9月になると、鹿肉をテーマに旬の会を催したり、「今月のうまいもん」としてテーマ食材に取り上げたりしています。
 鹿肉は、ジビエ(野禽類)に分類されます。この手のものは、ハンティングが主流なのでそれが解禁する冬場に流通することが多くなります。ところが「さかばやし」では、あえて9月の素材として用いています。かつてフレンチの名シェフとして知られた高柳好徳さんが丹波篠山でフレンチレストラン「ひわの蔵」を営んでいた頃の話。丁度、8月の週末に予約を入れて、行ってみると「今日のメインディッシュは鹿肉ですよ」と話されていました。何でも猟師が罠を仕掛け、それにかかったとのこと。「鹿肉は脂がないヘルシーな素材ですが、8月だけ脂が巻いていて美味なのだ」と教えてくれたのです。市場に夏鹿が出回らないのは、ハンティングが禁止されているからだそうで、実は脂を巻く8月が一年で最も旨いと高柳シェフは語っていました。
 それに倣えではないですが、せっかく鹿肉を仕入れるなら夏鹿がいいと判断したわけです。肉は魚と違って鮮度を重視せず、いったん冷凍して熟成することができます。ならば8月に獲ったものを冷凍庫で寝かせ、9月に提供するのがいいと思ったのです。先の獣害問題で知己を得た香美町小代(但馬地区)のNPO法人「峰鹿谷」にわがままを言って夏鹿を届けてもらい、調理することにしました。「峰鹿谷」では、獣害を減らすべく、農作物を荒らす鹿を罠で捕獲。それを24時間以内に地元の処理場へ運び食用の鹿肉にします。ジビエを食べた人が独特の臭みを嫌うのは、処理の仕方に問題があるから。鉄砲で撃つと、当たり所が悪かったらもがき苦しみ、それが血の回りとなってやがて臭みに転じます。幸い「峰鹿谷」では、罠で捕まえるのでそのような心配もなく、おまけに処理場へ運ぶ時間が短いことから肉が臭くならないそう。処理場にて内臓を取って血抜きをし、肉のみを冷凍庫内で吊り下げて保管します。このような手法が素材の良さにいかされており、「さかばやし」で鹿肉を召し上がったお客様からは「全く臭みがない」とか、「これまで持っていたジビエのイメージが一新された」との感想をいただいています。「さかばやし」加賀爪正也料理長も「肉が物凄くきれいで、味もいい」との太鼓判を押すほど、極めて上質の鹿肉を但馬から届けてもらっています。
 鹿肉は、低カロリー食材として注目を集めており、しかも高タンパク質。脂が少なくヘルシーなのが売りですが、やはり脂質=旨みの方程式が存在するのは事実です。脂が少ない鹿肉とはいえ、ほんの少しだけ脂を有していたほうが美味しいように思います。猟師達が「脂がちょっぴり巻く夏鹿は旨い」と太鼓判を押す、小代の夏鹿を「さかやばし」でお楽しみいただけるよう、9月のうまいもんとして取り上げることに致しました。9月の会席料理の一部や一品料理にご提供しますのでこの機会にぜひ味わってみてください。

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
 
料理長おすすめ「小代の鹿肉」の一品
おじろ鹿料理・コウノトリ米原酒ひやおろし01as
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