8月のうまいもん/淡路島の鱧
淡路島の鱧
「本邦初「鱧の杮鮓」がお目見得!」
鱧は、祇園祭や天神祭で食べるといわれ、夏場の食材として昔から用いられています。梅雨の雨水を飲んで旨くなると伝えられていますが、本当は、9月に産卵をするために、せっせと栄養を摂るので夏場にはよく肥えて美味になるのです。この時季の鱧は、お腹に卵を宿しており、うまくいけば卵も珍味として味わえるのですが、そこまで提供している料理屋はまず少ないでしょう。なぜなら腹を開いてみるまで卵があるかどうかはわからないのでメニューにはその料理(材料)を表示ができないからです。
「さかばやし」で淡路島由良漁港の鱧を提供するようになって数年が経ちました。今では、夏の名物となっており、それを求めて訪れるお客様も少なくありません。定番の「鱧のしゃぶしゃぶ」に、昨年からは鱧のすき焼きが加わり、鱧を用いた一品料理と合わせると、かなりバリエーションが増えました。そんな中で今年は新たに「鱧の杮鮓(こけらずし)」を仲間入りさせました。
杮鮓とは少々聞き慣れぬものかもしれません。江戸時代に大坂で人気を博した、いわば箱寿司・押し寿司の一種で、「守貞謾稿」(喜田川守貞が30年をかけて絵とともに風俗の違いを記した本)によると、文政末期か、天保期の初め(1830年)頃、心斎橋にあった「福本鮓」で従来の三倍程の厚みのある刺身で杮鮓を販売したところ、簡単に手に入らなかったほどの人気だったそうです。杮(こけら)とは、芝居などの劇場を開く時に用いられる杮落しと同じような意味で、本来は木削や削った薄い板を指します。ネタを重ねた様が杮(こけら)に似ていることから寿司の世界では、寿司飯に具材を重ねたものを杮寿司と呼んでいました。大阪寿司の一種として江戸にまで広まった歴史があるにも関わらず、にぎり寿司が流行しすぎたために脚光を浴びなくなり、忘れ去られつつあるのです。この杮寿司を復権しようと、ミツカン酢の大阪支店が企画中の案を、我々も「兵庫を代表する寿司にしてみては」と共同で考案したのです。幸い淡路島の一部(北淡辺り)にはベラで杮鮓を作る習慣が今でもあることから"兵庫県=杮鮓"をイメージづけようとしています。
「さかばやし」では、ベラを用いず鱧で作ることにしました。鱧を焼いて身をほぐし、甘辛く味付けて寿司飯に載せます。型で抜いた四角い押し寿司を想像してください。寿司飯もせっかく作るなら江戸期の風味をと、酒粕で醸造した酢(「三ッ判山吹」)を用いています。ミツカン酢のお酢博士・赤野裕文さんの意見を取り入れたり、氏の知識も用いながら作った「鱧の杮鮓(こけらずし)」は、おそらく本邦初公開、他では味わうことのできない「さかばやし」オリジナルの大阪寿司になったと思われます。前述したように8月は、「鱧」を今月のうまいもんとして、「鱧しゃぶ」や「鱧のすき焼き」をご提供しますが、ぜひとも本邦初公開の「鱧の杮寿司(こけらずし)」も一緒にお楽しみください。夏場が旬の鱧を仕入れて会席料理の一部や一品料理にも用いて献立を提供していますのでご賞味いただければと思います。
(フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめ「淡路島の鱧」の一品
■淡路の鱧の湯引き 1,200円
■淡路の鱧の南蛮漬け 1,400円
■淡路の鱧と有機野菜の天ぷら 2,900円
■淡路の鱧のしゃぶしゃぶ小鍋 3,000円
■淡路の鱧の杮鮓(こけらずし) 1,200円
※鱧の杮鮓は2日前までのご予約で承ります。
※鱧の杮鮓についてはこちらをご覧ください。
※価格は税込みです
※ご予約が必要ですので詳しくはお問い合わせください。
※数量限定のため、品切れの場合もございます。