8月のうまいもん/淡路島の鱧
鱧は大物に限るは、漁師町の常識
「エッ?!15kgの鱧が水揚げされた!」。7月の初めにこんなニュースが淡路島由良漁港から飛び込んで来ました。早速、現地に行ってみると、見事な大きさ。人の背丈ほどあろうかという大ぶりで、意外にも大人しく、漁港にある「海幸丸水産」の水槽でのんびり泳いでいました。由良漁協に属する「海幸丸水産」の橋本一彦さんの話によると、「水揚げが多かった昔は、このぐらいの大きさの鱧もたまには揚がった」との事。ところが、「今ではとんと見られなくなり、久しぶりの超大物鱧に周囲の仲卸しは、目を白黒して驚いていた」と言います。流石に15kgともなると、骨切りは大変で、「太い骨を断つのは至難の技。蒲鉾工場へ直行して練り物に使うしか術がないのでは…」との話でした。それでも腹辺りは骨がないので、「私は多分食べると思います」と橋本さんは話します。それほど脂乗りには期待が持てるのでしょう。これほど大きいと使い道が限られてしまうため、漁協ではセリで落とせず、仕方なしに橋本さんが漁師から買ったらしいのです。橋本さんも「珍しいので孫に見せたい」のが本音で、使い道はまだ決まっていないようでした。
一般的に料理屋が求めるのは、800gぐらいの鱧。それ以上だと骨切りが大変であるため料理人は敬遠します。料理人は、「大きいと大味」と言って嫌っていましたが、彼に「大物鱧を食べたことがあるか?」と聞いても「実績がない」とあやふやな解答が返って来るだけでした。大半の料理屋では、2kg〜4kgの大物鱧は扱いません。その答えは、骨切りが大変だからです。鱧は、大きければ、それだけ骨も太くなります。「さかばやし」の旬の会用にと、由良漁港の橋本さんから直送の鱧は、小さくて1.5kg、大きければ3〜4kgはある代物です。大谷直也料理長は、「そんな大物の骨を断つのが大変」と言い、一匹捌くと包丁がボロボロになるくらいと指摘しています。それでも橋本さんの大物鱧をさかばやしで提供するのは良質の味だからです。鱧は淡泊な魚ですが、太っていれば、それだけ脂が乗っていて旨いのだと漁場では話しています。「街の人達は本当の旨い鱧を知らない」、そんな言葉を淡路島でかつて聞いた時に衝撃が走ったのを、今も鮮明に思い出します。だからでしょう、橋本さんは、大物鱧にこだわりを見せるのです。
鱧が一般的になったのは、京でのこと。夏場に活けで京まで運べる魚がおらず困っていたのを鱧が助けました。鱧は水から揚げても24時間皮膚呼吸だけで生きていると言われるぐらい生命力がある魚。交通が発達していない江戸時代には、瀬戸内海から運んでも生きており、重宝したのだと思われます。だから今でも鱧といえば夏の魚の印象が持たれています。祇園祭りや天神祭りでは、鱧を食べる習慣があるのはその所以でしょう。厄介な骨切りも一寸の間に24回も包丁を入れ、皮だけを残して骨を断つという技を京の料理人達が編み出すことで可能にしました。
さて、今年も夏到来とともに、鱧の季節がやって来ました。「さかばやし」では、淡路島の名産「鱧」を8月のテーマ食材とし、会席料理の一部や一品料理でお楽しみいただきます。また、8月4日(金)には淡路・由良の橋本さんより産地直送で届く大物鱧で「旬の会 淡路島 由良の鱧と夏酒を楽しむ会」を催します。ぜひこの機会に夏の名産「鱧」をお召し上がりください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめの「淡路島産鱧の一品」
■淡路産 鱧の吸物 1,000円
■淡路産 焼き霜造り 1,500円
■淡路産 鱧と野菜の天ぷら 3,000円
※おすすめの一品は前日15時までのご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。