7月のうまいもん/明石蛸
明石蛸は、兵庫県が誇る名産品
〝明石蛸″といえば、全国にその名を轟(とどろ)かせる兵庫県の名産品。明石鯛と並んで明石浦漁協の名物となっています。〝明石蛸″とは、明石海峡もしくは明石沖で獲れるマダコのこと。マダコは、蛸目マダコ科の蛸の一種で、繁殖期は春から夏にかけて。交尾したメスダコは岩陰に潜んで産卵するそうです。マダコの卵は房状になり、まるで藤の花の如く見えることから「海藤花(かいとうげ)」と呼ばれたりします。産卵を控えた初夏が蛸の旬にあたり、兵庫県では〝麦わらダコ″と称して麦わら帽をかぶって漁をする季節には、一年のうちで最も美味な蛸として扱われているのです。
蛸は、昼は岩陰にいて、夜に活動します。甲殻類や二枚貝が好物で、それらが多くいる場所は、蛸の餌場になっています。蛸の吸盤の強さは、すでにご存知でしょうが、この吸盤にて硬い貝の殻までこじ開けるから驚かされます。明石海峡は、満ち潮時に反時計回りに渦ができるそう。その渦は、大阪湾と比べても狭くて小さい。三角波と西への潮の起きる点が海の難所とされており、嫌な満ち潮から「イヤ二チ」と呼ばれています。この「イヤニチ」が豊かな海の幸をもたらします。浅い漁場をつくって魚達に栄養源を与えます。明石沖にある海底丘陵〝鹿ノ瀬″は、まるで天然の生簀のようです。砂地はイカナゴの産卵生息地で、海老や蟹も豊富。それらを求めてマダコや真鯛が集まって来るのです。
明石では、古くから蛸漁が盛んで、弥生時代にはすでに蛸壺を使っての捕獲が行われていたようです。江戸期の「日本山海名産図会」によると、高砂ではイイダコ漁が、明石ではマダコ漁がすでに有名だったのがわかります。明石浦漁協で話を聞くと、現在蛸漁はほぼ底曳き網で行われているらしく、一本釣りはあるものの、古くからの蛸壺漁は少なくなってしまったようです。明石蛸の漁は、6〜8月が旬。梅雨明けの7月からは最盛期を迎えます。特に7月初めにある半夏生(はんげしょう)は、蛸が主役の日。半夏生とは、夏至から数えて11日目の日を指し、昔は、関西でこの時期までに田植えを終えるとし、農家では田植えが終わった休息日(半夏生)の日に蛸を食べるとしていました。蛸足のように稲がしっかり大地に根づくのを祈って食べたのでした。ちなみに2024年の半夏生は7月1日です。
兵庫県名産の明石蛸ですが、このところ不漁に喘(あえ)いでいます。これまでにも三八(さんぱち)冷害(昭和38年)など獲れない年もありましたが、近年の地球温暖化問題や栄養塩不足はさらに深刻。「漁獲量そのものが、最盛期の約1割までに減少した」と話す漁師もいるほどです。明石浦漁協では、豊かな海を取り戻すべく、海底耕耘なる取り組みを実施。海に投入した耕耘桁(こううんけた)をロープに結んで船で引っぱり海の底を耕します。こうすることで堆積物をかき混ぜ、土や泥、砂を掘り起こして中にたまっている窒素やリンを海に放出するのです。つまり海底耕耘は、生物が生息しやすい環境を作ることになります。こんな取り組みが功を奏したのか、一時的な危機的状況からは回復する傾向が徐々に見られて来たとの話も伝わっています。近年、蛸が高いのは、危機的不漁にあったとによります。
さて、「さかばやし」では、半夏生のある7月には、今月のうまいもんとして明石浦漁協から直送される鮮度の良い明石蛸を、会席料理の一部や一品料理で提供いたします。ぜひこの機会に明石の夏の名産「明石蛸」をご堪能ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2024年7月
料理長おすすめ「明石蛸」の一品料理
■明石蛸と野菜のゼリー掛け 1,000円
■明石蛸の柔らか煮と野菜の炊き合わせ 1,100円
■明石蛸の燻製 1,300円
■明石蛸の唐揚げ 1,600円
※おすすめの一品は事前のご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。