6月のうまいもん/泉佐野産水なす
その瑞々しさが、暑い夏にはたまらない
暑くなって来ると水なすが恋しい季節になります。水なすは、その名が示す通り水分を多く含み、瑞々しさが特徴の茄子。農家によると、一般的に茄子と呼ばれるものは、約200種類あるらしいのですが、そのほとんどは灰汁が多く生で食すのは無理とのこと。ところが水なすは、茄子の中でも珍しく生で食べることができるのです。水なすの産地は、泉州地域。泉佐野市・熊取町・岸和田市・貝塚市が主な産地です。その中でも泉佐野産は、市を挙げてブランド化を進めるほどで、市内の多くの農家がこの時季になると水なすを栽培して出荷しているようです。
泉佐野市内で水なす栽培を行っている農家の一つ、辻裕男さんに話を聞くと、「大半の農家は3月から。3〜6月がハウス栽培で作っており、7〜9月には露地ものが出て来ます」とのこと。ほとんどは、春から夏の栽培ですが、辻さんの所は冬場でもハウス栽培を行っており、11~12月は冬のギフト用に超促成栽培の水なすを出荷しているそう。冬でも需要があるくらい泉佐野の水なすは、その名が轟いている証しです。「十数年前から関東でも水なす需要が高まりました。その人気を受け徳島県や高知県、千葉県でも栽培するようになってきましたが、気候や土壌が違うのか、泉州のような逸品は出来ません」と辻さん。口の悪い人に言わせると、「顔が同じでも中身が違う」そうです。
泉佐野は、温暖な気候でかつて溜め池が多く、豊富な水量を利用して古くから水なす栽培が盛んに行われて来ました。水なすの特徴は、皮が薄く、果肉が柔らかく、灰汁が少ないこと。含まれる水分量は、なんと93%といいますから、その瑞々しさが想像できるはず。泉佐野の農家では、農作業の合間に水なすをかじって水分を補給したと聞きます。灰汁の少なさが生で食せる点なので、夏の産物としてぴったりといえます。そんな特徴をいかして「さかばやし」では、今夏「水なす蕎麦」をご提供することになりました。この一品は、大谷直也料理長が泉佐野市農林水産課のプロジェクトに参加した事で生まれた料理。ぶっかけそばに生の水なすを入れると、水なすがだしを吸って美味しくなると関係者から絶賛され、その好評ぶりを受けて献立の一品に加わりました。
水なすといえば、生か浅漬けと使い道が決まっていますが、調理利用すると実によく、長茄子よりむしろ上ではないかとプロ(料理人)の間で評価を得ています。大谷料理長も「揚げだしなどに用いると、だしをたっぷり吸って旨くなります。茄子の揚物は重たい印象を受けますが、水なすは水分量が多い分、そこまで油が染み込まず、揚物でも軽い感じになるのです」と話していました。皮がパリッとし、中がとろっとして独特の食感も得られるそうです。
「さかばやし」では、水なすの名産地・泉佐野の農家から直送した採れたての水なすを、6月のうまいもんとしてご提供します。浅漬けもあれば、生もある。調理利用した料理もあってまさに今月は水なすワールド。一品料理はもとより会席料理の一部にも使用しますので、「泉佐野産水なす」をこの機会にぜひご堪能ください。
(文/フ―ドジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめの一品
【今月の水なすは泉佐野農家 辻裕男さんが育てた水なすを使用しております】
■泉州水なすの南蛮漬け 550円
■焼泉州水なすの利久酢掛け 600円
■泉州水なすの揚げ出し 650円
■泉州水なすと鯛の昆布〆のお造り(白ポン酢ジュレ掛け) 2,000円
※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。