神戸酒心館

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5月のうまいもん/初鰹

神戸酒心館今月のうまいもんさかばやし

カツオ(素材)20230430ks

江戸の食ブームの先駆け、初鰹を味わう

 「目に青葉 山ホトトギス 初鰹」。この俳句は、江戸中期の山口素堂の作品で、丁度今頃の季節を詠んだもの。昔から初鰹は、食通の間で持て囃され、その旨さはえも言えぬほどと表現されていました。そもそも鰹は、外洋性の大型魚で、19〜23℃ぐらいの暖かい海を好み、黒潮に乗って春に北上し、秋には南下して来るという回遊魚。春から夏にかけて北上する時に獲ったものを〝初鰹″とし、三陸辺りから秋に南下するものを〝戻り鰹″と呼んで珍重がって食べます。初鰹は、さっぱりしており、逆に戻り鰹の方は脂が乗っているというように各々に特徴があるのも鰹らしさ。グルメの間では、「どちらが旨い」との論争が絶えませんが、季節によって風味が異なるため、それは人好き好きとでも言っておきましょう。
 ただ昔から初鰹の方が持て囃されているのは、先の山口素堂の句や、宝井其角の「まな板に 小判一枚 初鰹」の句などが証明しているのかもしれません。日本では、食において様々なブームが起こりますが、初鰹もその類い。初鰹を食べるのが江戸っ子の粋とまで言われて江戸期には初鰹ブームが到来しています。
 なぜ初鰹が流行したかといいますと、初ものには魂が宿るとされ、縁起がいいといわれていたから。江戸時代慶長期(1569〜1615年)には、すでにその流行が始まっていたそう。最も顕著になるのは文化文政期。文化2年(1812年)3月25日に入荷した17本の鰹に、一本2両1分から3両ぐらい(今の10万円程)の値がついたというから驚きです。そのうち6本は将軍家が購入し、8本は魚屋が、そして3本は料理屋の「八百膳」が買ったと記録に残っています。当時は人気の歌舞伎役者までそのブームを煽ったというくらいですから、現在のグルメブームや流行づくりと何ら変わっていないようです。江戸では、初鰹の中の初鰹と呼ぶべき存在(その年最初に水揚げされた初鰹)に最も高い値がつきました。これとて豊洲で行われている今のマグロの初セリと同じではありませんか。
 兎にも角にも今も昔も初鰹は値が高く、春から初夏にかけてのグルメ素材なのは変わりません。その漁獲高の多い高知では、鰹が獲れる4〜6月頃に、県観光をPRする素材として売り出しており、名物「藁焼きタタキ」は郷土料理の一つに挙げられます。鰹のタタキは、土佐造りとも呼ばれ、鰹を使ったものでは代表的な料理。皮付きのまま卸したものに、表面だけ火が通るように炙って、その後、冷水で締めます。藁を使うと、炙った時に香りが良くなるとの理由から藁焼きにするようです。鰹をタタキという調理法にしたのは、山内一豊の時代だといわれています。傷みやすく、昔は生で食して食中毒になるのを避けるために土佐藩主・山内一豊が鰹の生食を禁止したことから、タタキなる調理法が普及したと伝えられていますが、この発祥にも諸説あるようです。なぜタタキと呼ばれるのかは、これまた諸説あるようで、薬味などをまぶし、包丁の背で叩くとか、焼いてからタレをかけて木の棒で叩くなど色々そのいわれがあると聞きます。タタキや造りもさることながら鰹は、鰹節に使われるように日本料理にとっては大切な素材。それが初ものとして揚がって来る今の季節を尊びながら味わいたいものです。
 「さかばやし」では、旬の初鰹を「今月のうまいもん」とし、会席料理や一品料理でお楽しみいただきます。ぜひ、この季節に初ものの鰹を味わいながら夏の到来を予期しましょう。

(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)

料理長おすすめ「初鰹」の一品
カツオたたき・エコゼロ20230430bs
■初鰹の叩き       1,200円
■初鰹の造り       1,300円
■初鰹南蛮漬け      1,000円
※料理長おすすめの一品は事前にご予約ください。
※写真はイメージです