4月のうまいもん/春の筍
日本の言葉文化に影響をもたらした筍
食材、殊に野菜類で季節を感じることが少なくなりました。農業技術の高まりによりどんな季節でもハウス内で農作物を栽培することができてしまうからです。その代表例が苺です。かつては暖かくなってから市場に出回っていたものが、いつしか12月から4月ぐらいの産物に変わってしまいました。そんなことを思うと、筍は確実に春を感じさせる食材。いくら技術が向上しようと、この時季にしか出回らない、数少ない、食材で季節を感じさせてくれるものだといえるでしょう。
筍は、ご存じの通り竹の地下茎から出て来る若い芽の事を指します。分類すると、イネ科タケ亜科タケ類の若芽を指すそうです。筍の成長は速く、地表に顔を出すと、10日後には数十cmに達し、いつしか1mを超えてしまいます。漢字で"筍"と記すのもそんな成長度合いの速さから。グルメの世界では、よく食材の旬が語られることがありますが、実は旬とは10日を指します。月のうち上旬・中旬・下旬と表現するのがその証拠です。それぞれが10日ごとを表しているのです。その"旬"の字に"竹(たけかんむり)"をつけたのが筍。そのため筍は、10日で成長を遂げて竹になると理解してもいいのではないでしょうか。春に雨が降り、その後に筍が生えやすくなることから、ある事がきっかけで物事が続々と発生するさまを、我々は「雨後の筍」と表現することがあります。筍は、やがて竹に成長し、藪になることから技術がなく、藪医者にもなれぬ人を「筍医者」なんて呼んだりもします。このように筍は、日本の言葉の文化にも強い影響を与えていることがわかります。
食材として用いる筍は、地上に稈(さお)が出るか出ないかのものだと書きました。和食の世界では、この筍を重用する傾向があり、採れたての値段はなかなかのもの。今や春の高級食材といっても過言ではないでしょう。当然ながら暖かい地域(九州)から出始め、やがて四国へと移り、春の訪れ(3月~4月初め頃)とともに関西産が出始めます。全国で筍の生産量を見てみると、トップは福岡県。そして鹿児島県・熊本県と続き、高級品とされる京都府産は4位にランクインしています。鹿児島では11月ぐらいから収穫されており、九州や四国産のものを俗に早掘り筍と呼ぶこともあります。基本的に京都府辺りで採れるのが春ごろなので、古くから筍は春の食材といわれて来たようです。
筍の中でも孟宗竹(もうそうちく)が美味しく、それらが安定して流通するのが3~4月。それに対して淡竹(はちく)や真竹(またけ)は、もう少し流通するのが遅く、4月中旬から6月にかけてです。ずんぐりした孟宗竹に比べ、淡竹や真竹は細めなのでどうしても筍というと、孟宗竹を代表的なものとして扱うことが多くなってしまいます。高級品として扱われる筍は、京都の乙訓辺りが多く、乙訓では竹林をふかふかの土壌にして日当たりも考えながら育てます。ちなみに乙訓産とは、大山崎町、向日市、長岡京市で採れたものをいいます。「筍は山城のものがいい」とグルメはよく言いますが、乙訓の筍に負けず劣らずの品が、大阪府下の水間の筍です。貝塚市の東部に木積と呼ばれる地があり、ここは"水間"の文字でわかるように水に恵まれた場所。この赤土が筍にとってはいいのでしょう。ここで採れた筍が、昭和の初め頃までは黒門市場へ出荷され、それを料亭が好んで用いたそうです。
ところで、「さかばやし」では春の恵みとして九州から四国・関西で採れた筍を「今月のうまいもん」として4月の献立に用います。筍を駆使した一品料理や、会席料理の一部にも春の筍を用いていますので、ぜひこの機会に筍料理をご賞味ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
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