3月のうまいもん/山菜
河内の春をいち早く告げる八尾の若ごぼう
卒業、入学、就職と3月は、お祝い事が多い時期です。飲食店もそれに向けての対応に大童(おおわらわ)で、色々なフェアを催したりと、何かと活気に溢れています。ところが料理人にとっては頭を悩ませるのが春で、3月と4月はお客様にアピールできる食材が少ないのです。冬に蟹、ふぐ、クエと人気の食材が目白押しなのに対して、春は筍ぐらいしかないのが現状です。
春に山菜をテーマにする日本料理店も、旬の食材が少ない故の策。昔から春は苦みを盛るといい、山菜のような苦い食材が持て囃されて来ました。人は甘味、酸味、塩味、苦味を感じるとされ、そこに旨味が加わって五味となり、味蕾から味覚神経を伝って脳で認識できるものが、その五つだといわれています。ちなみに旨味を発見したのは、戦前の化学者・池田菊苗教授です。日本の十大発明の一つ、旨味成分=グルタミン酸ナトリウムの発見者として知られています。
舌は年齢や経験によってその旨さを発見する感覚が違うとの説があり、子供は甘みを好みますが、苦いものは好まないことが多いようです。なので、苦みを旨いと思うのは、大人になってから。そのため、苦みを有す山菜も年齢が高い人ほど好むというのは、私の勝手な理論なのでしょうか。
そもそも山菜とは、山野に自生する食用植物の総称です。殊に春には蕗(ふき)の薹(とう)、独活(うど)、芹(せり)、薇(ぜんまい)、蕗(ふき)、野蒜(のびる)、たらの芽、うるい、萱草(かんぞう)と有名なものが沢山採れます。中でもたらの芽は、山菜の中でも人気が高い素材。価格も他と比べると高価で、昔の職人に言わせると、「献立の中にそうそう簡単には入れることができない」と発言する人もいるようです。たらの芽は、ウコギ科のタラノキの新芽を指し、その部分を山菜として食べます。昔は、ほんの一時期だけ味わえる食材で、稀少価値のあったものでした。それが栽培が進んだために以前のような自生の物を求めなくてもいいようになり、その分だけありがたみは薄れたように思えます。このたらの芽を美味しく味わうのは天ぷらが一番かもしれません。それくらいこの料理法がたらの芽の味わいをうまく表現しているように思えてなりません。
「さかばやし」の加賀爪料理長に聞くと、山菜といえば信州や北陸など雪深い地が有名だそう。寒い冬を耐え抜いて春の訪れを待つ気分がそんな山菜に表れているのかもしれません。ただ、関西の町の中でも有名な存在があるのです。それは大阪府八尾市で採れる若ごぼう。この素材は香川県などでも栽培されてはいますが、やはり八尾産の右に出るものはありません。若ごぼうには、食物繊維やカルシウムが多く、ルチンも韃靼(だったん)蕎麦に匹敵するほど含まれています。ハウスものは、1月下旬には出荷されますが、やはり露地物が出回る頃が旬とされ、3~4月初旬くらいが若ごぼうの旬といわれています。ごぼうと名がつくものの、葉ごぼうなので一般のごぼうとは形も異なり、一目見ると蕗と間違えそうなくらい。独特の歯ざわりがあってそのほろ苦さは、春待ち食材の特徴を伝えているかのようです。長い軸と短い根を食べるのですが、炒め煮にしたり、サラダに使ったり、天ぷらにしたりと色々楽しめます。
今回「さかばやし」では、たらの芽や八尾の若ごぼうを始め、様々な山菜を各地から取り寄せました。3月の旨いもんとして会席料理や一品料理に使っていますので、ぜひこの機会に春らしい苦みを味わってみてはいかがでしょうか。
(フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめ「山菜料理」の一品
■春野菜と山菜のお浸し 1,000円
■黒毛和牛の山菜小鍋 2,700円
■穴子と山菜の天ぷら 2,900円
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