2月のうまいもん/酒粕料理
神戸酒粕 郷土料理化宣言 2020
現在、酒粕が静かなブームを呼んでいます。そのきっかけは、神戸酒心館が中心となって行う酒粕プロジェクトによるもので、6年前から毎年この時期(2月)に、神戸の様々な飲食店で「福寿」の酒粕を用いたメニューを提供するようになり、その時期に合わせて記者発表を行うためにいつしか神戸の冬の風物詩のようになってしまいました。そしてこの取り組みが全国へと徐々に波及して行き、ブームのように東国でも調理素材に酒粕を用いたのです。
酒粕プロジェクトの旗振り役である神戸酒心館でも他店にも負けぬような酒粕メニューを考案しました。2月の「うまいもん」として、オリジナル料理を提供してまいりました。その一つが大阪樟蔭女子大学の学生が考案した「酔いどれ蒸し寿司」(1300円)。同大学の学芸学部ライフプランニング学科には、筆者が授業を担当する「フードメディア研究」があります。ここでは受講する三回生に酒粕プロジェクトへの参戦を促し、酒粕の周辺知識を学び、新たな酒粕の用い方を模索しています。12月に行ったプレゼン大会で見事勝ち抜いたのが竹中優佳さん・樽谷優花さん・中尾星さん・中嶋咲七さん・松本佳子さんの面々。彼女達が考案したのが蔵の料亭「さかばやし」にて平日限定(要予約)で提供する「酔いどれ蒸し寿司」なのです。21歳の若き発想は、素晴らしく、料理人ならまず行わないであろう作り方を用いています。酒粕を小さな粒々にしてご飯にまぶすという発想は、酒粕になじみのなかった世代だからやりえたこと。そこに酒粕で造られたミツカンの純酒粕酢「三ツ判山吹」を加えて寿司飯を作っているのです。具材は鯛や海老など、上方で生まれ、江戸時代に流行した蒸し寿司が、酒粕をまとうという新たな調理法で見事復活を果たしました。学生代表の中尾さんは「昔は蒸し寿司がよく店々で出ていたと聞きました。ところが今はあまり目にしなくなったようです。かつて一世風靡(いっせいふうび)した蒸し寿司を、今はブームとなった酒粕の一助によって新たな料理として蘇らせたいと思ったのです。まさに温故知新をテーマとした一品だと自負しています」と話しています。プロの料理人と肩を並べるかの如く、今どきの女子大生が考えた料理は、記者発表会場でマスコミからも絶賛されるほど。2月29日まで、蔵の料亭「さかばやし」で提供していますので、彼女らのレシピに倣い、加賀爪料理長が再現したこの蒸し寿司をぜひこの機会にお召し上がりください。
また、蔵の料亭「さかばやし」では、1月より毎月20日を「粕汁の日」として、月毎に様々な粕汁を提供していく予定です。今回の酒粕プロジェクトの参戦メニューで、2月の粕汁に挙げるのが「エコ粕汁」。昨年、神戸酒心館は企業として様々な環境に配慮した取り組みが評価され、第2回エコプロアワード 財務大臣賞に輝きました。その考え方を粕汁に取り入れたのが「エコ粕汁」なのです。考えれば、酒粕も日本酒づくりから出る副産物で、いわばエコ素材。他の料理に用いられなかった食材部分をうまく具材にして粕汁を作ったのがこの献立というわけです。他の調理の破材といえども栄養がある食材部分がいっぱい入るのですから、かなりの栄養価大の汁物になるはずです。今では忘れ去られたようですが、1月20日を二十日正月と呼び、西日本では魚を食べつくす習わしがありました。正月祝いの塩鰤の骨や頭を大根などとともに粕汁にしたとの話が残っており、この日は骨正月とも呼んだそうです。「さかばやし」のエコ粕汁は、そんな「始末の料理」としての昔の風習を思い起こさせるもの。ぜひ食していただき、日本人の「もったいない」の精神をこの献立から感じ取っていただければ幸いです。今月は、酒粕がテーマ。他にも「酒屋鍋」など様々な献立がございますので、この機会にぜひご堪能ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめ「酒粕料理」の一品
■粕汁小鍋 須磨海苔とともに 1,300円
■酒粕チーズ 1,100円
■帆立貝の吟醸和え 700円
■酔いどれ蒸し寿司 1,300円(平日限定、2日前までの要予約)
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