12月のうまいもん/淡路島三年とらふぐ
今や兵庫県を代表する名産品に成長
寒風吹きすさぶようになると恋しくなるのがふぐでしょう。関西人は、特にふぐ好きで知られ、「てっちりを食べないと今年が終わらない」と言う人までいるくらいです。最近では首都圏でもふぐ食が増えてきているそうですが、それでも大阪府下の消費量は、まだまだダントツで全国の6割も占めるそうです。元来、ふぐは、下関を中心に西日本で水揚げが多い魚。その漁獲高は、天然ものは福岡県や山口県、島根県などが昔からの産地で今でも強いのがわかります。
なぜ、福岡・山口辺りが古くからの産地かというと、この両県にはふぐを禁じたり、解禁したりのエピソードが残るから。ご存知のようにふぐは毒を持つ魚で、その毒化には内因説と外因説があるとされます。近年では、食物連鎖によってふぐの体の中に蓄積されるのが有力になっていますが、当然ながら昔の人は、その毒の因果関係を知りません。豊臣秀吉が朝鮮に出兵した際に兵を一旦、福岡の名護屋城に集め、そこから海を渡らせました。その時に玄界灘や関門海峡で獲れたふぐを兵士が食べて中毒者が続出したために「こんな恐ろしい魚を食べてはいけない!」とばかりに秀吉がふぐ食禁止令を出してしまいました。これが機となって徳川政権下(江戸時代)でも武士は「己の食い意地で主君に捧げる命を落としてどうする」と食べることを禁じていたようです。それでもふぐの美味しさを知る地元民達は、隠れてこの危険な魚を味わっていたと聞きます。
時は変わって明治になり、伊藤博文が故郷(長州)に帰ります。その時、下関にある「春帆楼」の女将がこっそりと彼にふぐを食べさせたのです。伊藤博文は、「やっぱりふぐは美味」と称賛し、山口県に限ってふぐ食を解禁しました。今でも下関がふぐの名産地とされるのは、このことが原因です。以来、下関がふぐの一大漁場となったのです。山口県でふぐ食禁止が解かれたのが、明治21年(1898)のこと。さらに兵庫県では大正7年(1918)に、大阪府では昭和16年(1941)にふぐ食が解禁になっています。
ところで天然ものは福岡県や山口県と書きましたが、これが養殖になるとその勢力図はガラリと変わります。長崎県がその漁獲量は全国の半数以上をも占めます。その次は、熊本県、香川県、兵庫県と続きます。その兵庫県での養殖を支えているのが、今や県の名産品になった「淡路島三年とらふぐ」でしょう。「淡路島三年とらふぐ」は、鳴門海峡で養殖されているふぐ。淡路島の南端にある福良港では、40年前くらいからとらふぐの養殖に取り組んでいた歴史があるそうです。他の養殖場から出荷されるのは、二年もののとらふぐが主流。養殖のリスクが少ないからあえて二年で成長させたものを出荷させます。ところが、福良港では近年三年間で成長させたふぐを出荷するようになりました。一年多く養殖すると、生存率のリスクが上がるのですが、大きくして味を良くするには、あえてリスクが大きくなるのを覚悟して養殖せねばなりません。そこで漁業者は、工夫して養殖を行います。二年ものだと約800gでの出荷になるところ、三年ものはそのサイズも約二倍に。1.2kg〜1.8kgまで成長させての出荷になります。大きくなれば味も濃厚に。潮流の速い海峡で一年余計に養殖するので身の締まりが良く、歯応えも天然ものに負けない程になります。
「さかばやし」では、毎年12月になると、「淡路島三年とらふぐ」を福良港より仕入れ、「今月のうまいもん」として会席料理の一部や一品料理として提供します。今年もこの機会に冬の味覚「淡路島三年とらふぐ」をご賞味ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2023年12月
料理長おすすめの「淡路島三年とらふぐの一品」
■淡路島三年とらふぐの薄引き 1,800円
■淡路島三年とらふぐの唐揚げ 2,000円
■淡路島三年とらふぐの小鍋 2,800円
※おすすめの一品は前日15時までのご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。