12月のうまいもん/淡路島三年とらふぐ
関西に冬到来を告げる、定番のふぐ料理
ふぐは、関西人にとって愛すべき食材。冬の到来を何で知るかとの質問に「てっちりを食べたこと」と答えるのは、実に関西人らしい解答でしょう。明治以前に食べることが禁止とされていたふぐを、食すきっかけを作ったのは山口県の下関です。ただ、その消費量は現在のダントツ一位で大阪です。ふぐの産地が、福岡や長崎などの西日本中心のため、昔からふぐを安く食べられる土壌があったのでしょう。昭和30年代になってテレビが普及すると、関西の名店がテレビCMを流し、「てっちり」をアピール。このことが、さらに庶民に冬の食材として浸透するようになったのです。残念ながらその名店は、コロナ禍の事情等も重なり店を閉じてしまいましたが、そのC Mソングは年配者なら誰でもが知っているフレーズでした。
定かではありませんが、ふぐ鍋を表す「てっちり」も、ふぐの刺身を表す「てっさ」もその言葉は関西発祥だと伝えられています。免許を持たない素人調理では、ふぐの毒にあたることから、ふぐを“鉄砲”と称し、そのちり鍋なので「てっちり」と呼ぶようになりました。「てっさ」は、“鉄砲”と“刺身”が合わさったものです。身が透けるぐらい薄く切って出すのが「てっさ」のスタイル。このように薄く切るのは、ふぐの肉質に原因があります。ご存知のようにふぐの肉は、弾力があって歯応えがあるのが特徴。これを厚切りにすると、噛み切りにくく食べるのが困難になるばかりか、硬すぎて旨みも味わいにくくなってしまいます。ところが、寿司屋に行くと、ふぐの握り寿司に出合うことがあって、天邪鬼な私はどうしてもそれを所望してしまうのです。厚いと旨みが味わいにくいと書きながら、“グルメ”とはちょっぴり変わったことをする人を指すのかもしれません(笑)。
ところで、ふぐを漢字にすると“河豚”となり、海の魚なのに“河”や“豚”の字が当てられています。ふぐは、平安時代には、“布久(ふく)”とか“布久閉(ふくべ)”とか書かれていました。「ふぐ」の呼び名は江戸時代からだそうで、関東の呼び名が全国に広まったらしいのです。ふぐを”河豚“と書くのは中国に由来します。中国では、メフグなる種類が古来より食用化されており、これは河の中流域まで遡り、そこで漁獲していたことから”河“の字が当てられ、ふくれた形が豚に似ていることから”河豚“と表現されるようになりました。我々からすると、むしろ”海豚“だろうと言いたくなりますが、それは”イルカ“と読むことから、海の豚を使用することはできません。
さて、肝心の「淡路島の三年とらふぐ」ですが、これは淡路島の南端にある福良湾で養殖されています。30年程前から養殖への取り組みを始め、20年ぐらい前から実績をあげるようになったのです。今では兵庫県の名産品に挙げられるほど、グルメからは高く評されるようになりました。その名前からもわかるようにこのふぐは三年間養殖して出荷されます。とらふぐは基本的に二年間の養殖で、800g以下のものが大半ですが、もう一年余計に養殖期間を延ばすことによってサイズは二倍近くなって、1.2kg~1.5kgのふぐが出荷できるのです。福良は、全国のふぐの養殖場でも一番水温が低く、おまけに鳴門海峡の潮流がきついので養殖に適しています。そこで泳ぐふぐは身が締まって味も濃厚。天然にも引けを取らないほどの一級品になると言われています。「さかばやし」では、今年も淡路島の三年とらふぐを仕入れ、鍋物はもとより、会席料理の一部や一品料理に使用します。また、淡路島三年とらふぐ会席もご用意しております。ぜひ、関西の冬を告げる食材として淡路のふぐ料理をお楽しみください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2021年12月
料理長おすすめ「淡路島三年とらふぐ」の一品
■淡路島三年とらふぐの薄造り 1,600円
■淡路島三年とらふぐの唐揚げ 1,800円
■淡路島三年とらふぐの小鍋 2,500円
※おすすめの一品は予約にて承ります。価格は税込価格です。
※写真はイメージです