12月のうまいもん/淡路三年とらふぐ
相場高騰でもやっぱりふぐが恋しい
関西人はふぐに目がないと言われます。「てっちりを食べた?」が冬場の挨拶のようにな
っており、ふぐを食べないと年を越せないと発言する人まで出る始末。とにかく冬の味覚に蟹と並んで挙げられるほど人気があるのです。
ふぐは漢字で「河豚」と書きます。これは中国で食用されているメフグが淡水域に生息することによります。「豚」の字は、メフグが豚のような鳴き声を発することで当てられたと伝えられていますが、私はまだそんな音(声)を聞いたことすらありません。ふぐの本場・下関では、濁点をつけず、「ふく」と呼んでいます。これはある種のげん担ぎ、「ふぐ」だと不具や不遇に繋がるといい、「福」を呼ぶ意味でそう発音するのだそうです。「てっちり」の語源の「てつ」とは、鉄砲のことで、ふぐが毒を持つことから大阪では「たま(弾)に当たると死ぬ」との意味を込めて、ふぐを「鉄砲」といい、それをちり鍋にするから「てっちり」と呼んだといわれています。
ふぐには、天然ものと養殖ものがあり、前者の漁獲高一位は福岡県で、二位が山口県。この二県で2割以上に達します。片や後者は、圧倒的に長崎県が多く、6割を占めるほどなのです。
しかし、このところ養殖ふぐの世界に異変が生じて来ました。それは俄然、淡路島が目立ち始めたこと。兵庫県は全国の4%で漁獲高が4位と上位だったのは事実ですが、60%の長崎県や13%の熊本県に比べるとかなり少ない。それでも脚光を浴びているのは、今や兵庫県の名物になりつつある淡路島の三年とらふぐがあるから。元来、ふぐは二年ものがほとんどで、大抵800g以下のものが市場に流通しています。淡路島の福良では、鳴門海峡の激しい潮流を利用してふぐを養殖しているのですが、二年で出荷せず、もう一年余分に時間を取って大きくなるのを待って出荷しています。三年間養殖したとらふぐは、二年ものの二倍近くに。その重さも1.2~1.8㎏になるといいますから、肉がたっぷり。その上、潮流によって身も引き締まって美味しくなっています。
三年間育てるということは、かなりのリスクが生じます。その間に死んでしまっては養殖業者は元も子もないからです。ふぐ同士が噛み合わぬよう一匹一匹歯を抜いて海(養殖域)に帰す作業は大変。そんな苦労をしてまで美味しくなる(大きくなる)ようにしているそうです。ふぐ専門店の店主は、その一年分の大きさでかなり味が違って来るとまで言い、800gと1.2㎏では、歯応えなど味にも影響してくるほどと説明しています。
さて、今年も師走に、冬の味覚・ふぐをいち早く味わい、2016年を締めくくろうと考えてもおかしくはありません。ただ今年のふぐ相場はかなり異変ありで、その価格がグンと跳ね上がっています。漁業関係者に言わせると、海の温度が下がらないのも一つの要因。こんなところにも地球温暖化が影響を与えています。おまけに数年前の地震でふぐの稚魚が死に数も少なくなってしまったとか。その時の稚魚が成長した今年あたりは養殖の数も当然ながら少なくなっているのです。これがさらに天然ふぐを高騰させている原因で、相場が安定しないと漁協の人は嘆いていました。
そんな悪環境下にもめげず、「さかばやし」は今年も三年とらふぐを仕入れます。しかも12月8日(木)に催す「旬の会(淡路島三年とらふぐとしぼりたてを楽しむ会)」は、なんと料金を据え置き(12000円)で実施しています。そう考えて胸を張って書いていたら、すでに満席なのだそう。やはりお客様はよく知っているようです。なら12月は、三年とらふぐを「今月のうまいもん」として取り挙げることで会席の一部や一品料理にも使おうじゃありませんか。「ふぐを喰わないと年が越せぬ」と嘆かぬためにもいかがでしょう。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
【おすすめ一品料理】※入荷状況によりご提供できない場合もございます。
・淡路三年とらふぐのてっさ 1,300円
・淡路三年とらふぐの唐揚げ 1,600円
・淡路三年とらふぐの白子塩焼き 2,000円 *すべて税込