11月のうまいもん/落ち鱧
冬眠する前の、脂の乗って肥えた鱧を今、食すべし
インターネットで「落ち鱧」と検索すると、「さかばやし」の「うまいもん/落ち鱧」のコラムが一番初めに表示されます。それほど落ち鱧を説明するのに、同コラムが果たしている役割が大きいことがわかります。それとともにわかるのが、まだまだ鱧の旬が夏場だと認知されている点。祇園祭や天神祭は、鱧祭りとも称され、その時季の魚として鱧が使われているのは事実です。しかし鱧の本来の旬は、晩秋に当たります。鱧は、寒の時季になると、冬眠するため、その間の栄養を蓄えようと、秋になるとせっせと餌を食べるのです。その分、晩秋には肥えていますし、脂も乗ってくるのです。そのため、冬眠前の晩秋の鱧が一年で一番美味しいとされています。ただし、夏場の鱧も悪くはありません。鱧は9月に産卵時期を迎えます。産卵前はお腹の子に栄養を与えねばなりませんから、餌を多く食べるのです。俗に〝鱧は梅雨の雨を吸って旨なる″と言われるのがその所以(ゆえん)。別に雨を吸うからではなく、宿した子に栄養を与えるために食べるから旨いわけなのです。私も20年ぐらい前までは、鱧の旬は夏場だと誤解していました。それを払拭してくれたのは、漁場の人達でした。特に鱧の産地・由良(淡路島)の漁協で仲卸しを営む「海幸丸水産」の橋本一彦さんは、魚の知識を教えてくれるとともに、本当の旬(晩秋)の鱧を沢山食べさせてくれた人物。よく鱧は淡泊だといわれますが、晩秋の鱧を漁場で食すと、甘みの乗った味が堪能できるのです。こんなこともあって私は、食のコラムに鱧の旬が晩秋だとよく書いています。
最近、TVを観ていると、「鱧の旬は秋にあり」と紹介がありました。ただ、そのVTRでは、秋の旬を晩秋ではなく、9月だと紹介していたのです。前述したように9月は産卵期に当たり、子を離してしまった鱧は痩せ細り、一年で最も美味しくありません。残念ながら、鱧の正しい旬が紹介されておらず、正しい情報を伝えることの難しさを改めて痛感しました。
よく旬には、三つの表現があるといわれます。一つは走りで、出始めを指します。もう一つは盛りで、これが本来の旬です。あと一つは名残り。これは盛りが過ぎ、名残り惜しさも伴って食べるものをいいます。走り・盛り・名残りの三つは、普通連続するのですが、殊鱧に関してはそうではありません。仮に一般的な旬といわれる盛りを夏として考えたとしても、6月が走りで、7〜8月が盛り。でも9月は美味しくないので、少し飛んで11月から12月を名残りと表現せざるをえなくなります。ましてや、このコラムのように11月半ばから12月を旬の盛り(本当の旬)と称すなら、走り・盛り・名残りの理論が無茶苦茶になってしまう_、そう思いませんか?ならば、一般的理論のように、初夏が走り、盛夏が盛り。そして晩秋を名残りと表現するのがいいかもしれません。「さかばやし」では、11月の鱧を名残りといわず、あえて〝落ち鱧″と称して紹介しています。この言葉の方が、冬眠を控えて太ろうとする鱧にふさわしいように思えるからです。落ちる前に食べておけ。そんな風に語りかけているように思えます。
さて、「さかばやし」では、本当の旬を迎える鱧を「今月のうまいもん」のテーマ食材とし、一品料理や会席料理の一部にご用意しました。この機会に「落ち鱧」の味わいをぜひご堪能ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
料理長おすすめの「淡路産落ち鱧の一品」
■落ち鱧の湯引き 1,300円
■落ち鱧の南蛮漬け 1,400円
■落ち鱧と秋野菜の天ぷら 3,000円
※おすすめの一品は事前のご予約にて承ります。
※価格は税込価格です。
※写真はイメージです。