11月のうまいもん/落ち鱧
鱧の本当の旬は、晩秋にあり!
「鱧は晩秋が美味しい!」、そう訴えて何年が過ぎたでしょうか。これまで様々なメディアにおいて関連記事を書いたことで、落ち鱧を本当の旬とする動きが高まってきたように感じます。淡路島へ行くと、「曽我さんが落ち鱧の価値を訴えるために、晩秋の鱧の値段が上がった」なんてぼやかれます。私が鱧の本当の旬を知ったのは、20年くらい前。淡路島・由良漁港にて仕入れを通じて知りました。友人でもある同港の仲卸し・橋本一彦さん(海幸丸水産)は、いつも大物の鱧をセリ落として私達にふるまってくれます。その時に鱧の習性を話してくれたのが、落ち鱧の記事を書くきっかけでした。「鱧は、寒くなると冬眠する魚です。熊がそうであるように冬眠前はたくさんの餌を食べます。食べて肥えて冬場を寝て過ごすのです」。橋本さんのこの話はまさに理に適っており、鱧はたくさん餌を食べる晩秋が狙い時と分かったわけです。
では、なぜ鱧は夏の魚と思われているのでしょうか?それは、京料理と深い関係にあります。海に面さない京の都では、昔は人力で魚を運び、瀬戸内と若狭の両方から運ぶのですが、夏場になって気温が上昇すると、京の都まで魚がもちません。暑さのあまり腐らせてしまい、それを調理することができなくなるからです。知恵を絞った京の料理人は、鱧の生命力にその活路を見出します。
鱧は、ウナギ目ハモ科の海水魚で、一般の魚より遥かに生命力が強い魚です。海水から揚げても皮膚呼吸だけで24時間以上生きているそう。たとえ心臓が止まっても臓器はさらに長時間生き続けるといわれています。そんな強い魚なら夏場の暑さにも耐えられるだろうと彼らは考えました。ただ一つ難点が生じます。それは小骨の多さです。鱧は海底に潜って棲んでいるので筋肉や背骨が強い。おまけに筋肉の間には細長い骨が沢山走っています。それを取り除かなくては食べることができません。京の料理人は、何とかしようと、鱧の骨切りなる技術を編み出しました。一寸の間に24回包丁を入れ、骨を断つように切ります。皮と身のすれすれの所で包丁を止める技は難しく、料理人でも慣れていないと失敗するほどです。関東で鱧を出す料理屋が少ないのは、鱧の骨切り技術を持つ料理人が多くないからです。このように京の料理人達は、鱧の骨切りという技術を会得することで、夏場の京の都で鱧を提供することができるようになりました。いつしか鱧と京の都の夏が結びつき、祇園祭あたりに鱧を食す習慣が根づいたのです。これが今も続き、交通の発達した令和の世にも関わらず、夏に旬を迎えるというイメージがもたれているのです。ただし、夏場の鱧は美味しくないかというと、決してそうではなく、夏は産卵前にあたり、餌を多く食べます。だから肥えている鱧も多く、あながち夏が旬というのは大きな間違いだとも言えないのでしょう。
淡路島の漁場では、鱧の旬が晩秋だと知っている人が多いので、この時季のものを、落ち鱧と称して持て囃します。たくさんの餌を食し、身が肥えて、脂が乗った鱧は実に美味。特に、晩秋に釣り上げられた大きな鱧はその美味しさが実感できます。大物は大味なんて誰が言ったのでしょう。1.5kg以上の大物はそれだけ脂も乗っており、本当に美味しいのです。
「さかばやし」では、11月に水揚げされた淡路島産の落ち鱧を会席料理や一品料理に用います。ぜひこの機会に落ち鱧の味わいをご堪能ください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
2021年11月
料理長おすすめ「<淡路産>落ち鱧」の一品
■落ち鱧焼き霜の酢味噌掛け 1,000円
■落ち鱧の南蛮漬け 1,200円
■落ち鱧と水菜の小鍋 2,000円
■落ち鱧と秋野菜の天ぷら 2,950円
※写真はイメージです。
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