1月のうまいもん/“クエ”はふぐと並ぶ冬の味覚
淡白なのに、脂を有す「クエ」を食べつくす
ふぐや蟹と並んで冬の名素材といわれるのがクエです。クエを有名にしたのは、和歌山の日高や白浜。海水浴で賑わう同地が、冬の観光ネタとしてクエ鍋を売り出し、それが見事に当たったわけです。元来、関東はアンコウで、関西はふぐといわれた嗜好ですが、今さらアンコウに手を出すわけにはいかなかった関西人が、それに代わるものとしてクエをクローズアップし、バブル期のグルメブームに乗って一気に広まったのだと思われます。
関西人にとってはバブル期以降のなじみの魚なのですが、実は関取たちはその美味しさをそれより前から知っており、大相撲の九州場所では、クエをちゃんこ鍋に入れて食べていたそうです。魚は地域ごとに名前が変わることが知られていますが、福岡や長崎ではクエをアラと呼びます。なのでアラ煮(だき)といえば、我々関西人が想像するものとちょっと違い、クエ鍋を指すのだといわれています。
クエはハタ科の大型魚で、水深50〜100mの岩礁に棲む魚。20年以上生きるともいわれており、体長は1mで重さは30〜50㎏になります。潮の速い岩場で暮らし、主に魚や伊勢海老など甲殻類を捕ります。岩場から自分の上を通る魚を狙い、大きな口を開けて水ごと入れるのですが、エサを飲み込むまでは時間が少々かかります。このあたりが巨大魚の宿命なのかもしれません。飲み込んだ後は、また岩場へ潜み、次のエサを待つのです。こんな生活をしているからか、釣るのは難しいとされており、一カ月で何匹もかからない時もあるそうです。
幻の魚では客を呼ぶのも難しかろうと、近大が養殖に取りかかり、見事成功しています。エサを食べる量が水温に左右されることがわかって白浜で育てたクエの稚魚を奄美大島で成魚にし、それをまた白浜に戻して身を引き締めるのが彼らが開発した養殖方法です。
地元(白浜)では養殖物でも天然に負けないと言っていますが、やはり味わって見ると天然ものに軍配を挙げざるをえません。和歌山で獲れたものや長崎・五島列島で獲れたものは、やはり上物。これを味わったら養殖ものにはなかなか手が出せないと私は思うのです。
クエは垢穢とも九絵とも書きます。九絵と記すのは体にある縞模様を指して。時とともに変化させるので九絵とあてたのだと思われます。クエは刺身に揚物、焼物、湯引き、鍋と調理法がありますが、やはり一番は関取も食べていたようにクエ鍋でしょう。鍋にブツ切りを入れると身が締まり、脂もたっぷり。淡白なのに脂分があるのが、これまたよく、一部ではふぐよりも脂がある分だけ上だと言う人までいるくらい。
さて、「さかばやし」では、1月はこのクエを「酒心館会席」の一部や一品料理としてご提供する予定です。「クエを喰ったら他の魚は喰えん」とダジャレが出てくるほど上質な冬の味覚を、ぜひこの機会に味わってみてください。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)
**おすすめの一品料理***
・クエの造り 1,700円
・クエの小鍋 2,800円 ほか
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