3月のうまいもん/冬季の名残りに、香住の蟹を味わう!
弥生三月・・・、暦の上では春になります。春といってもまだまだ風は冷たく、冬物の衣類を仕舞い込むには少々勇気がいりそうです。この時季になると、いつも心残りとなるのが冬の味覚をしっかり味わったのかどうか。冬は蟹に、ふぐ、クエ、アンコウ、猪…と美味なる素材が揃っており、色んなものを食べたつもりでもなかなか全制覇はできてないのが現状。これらの食材は大半が3月いっぱいまでとなっており、駆け込み需要の如く、あわてて店にいかなければ、8カ月間はおあずけ状態が続くことになります。
関西人にとって何がなんでも食べておきたいのが、やはり蟹でしょう。兵庫県北部を含む山陰地方では松葉蟹漁が3月末で終了し、11月初旬から始まった蟹騒動(蟹をメインにした観光のこと)もいったん終止符を打ちます。そもそも松葉蟹とは雄のズワイガニのことをいい、これが福井県に行くと、越前蟹と呼び名を変えます。セイコガニは、雌のズワイガニを指し、その大きさにかなりの違いがあるのです。ズワイガニは、水深200〜400mに生息しているのですが、紅ズワイガニと呼ばれているものはもっと深く500〜2500mに棲んでおり、そのため漁も難しいのか、300杯に1杯くらいしか獲れません。
日本では資源保護のために海域ごとに制限を設けており、おまけにある程度の大きさ(漁獲許諾サイズは甲羅幅90cmを超えたもの)になるまで獲ってはいけないと決められています。ちなみにズワイガニは、生まれてから親ガニになるまでが約10年。10回目の脱皮を行って、成体(甲羅幅80cm程度)になっていきます。11回目の脱皮で雄と雌の大きさが著しく変わり、2倍以上になるといわれており、それ以降のものを我々は口にしているのです。そして11歳で漁業許諾サイズとなり、グルメな素材として料理屋などに出されます。蛇足ながら蟹の平均寿命は約15年といわれているようです。
ところで、兵庫県下においてもっとも漁獲量が多いのが香住港。その理由は蟹漁などの大きな船が着き、かなりの魚介類がセリにかけられるからです。ズワイガニにとって生息しやすい環境が山陰の海にあり、いいエサを食べて育つため旨い蟹がこの地で揚がるそうです。香住で揚がった松葉蟹(雄のズワイガニ)は、濃厚で、香りがよく、甘みもしっかりしており、独特の弾力を持ち、歯応えもいいとの評判があります。この蟹の旨みを保つために漁業関係者の苦労や並大抵ではなく、獲ったものの鮮度を保つために船には2〜3℃を維持する機能を装備させ、おまけに漁港では200〜300m先の海中から水を取って紫外線殺菌してから水槽に入れるほどです。漁港では110のランクに選別されてセリにかけられます。選り手と呼ばれる人は、一本立ちするまでに十数年かかり、番ガニ以上を任される(トップクラスになる)には20〜30年のキャリアが必要とされています。そして選り手は、形・質・重さを瞬時で見分け、少しのキズや50gの誤差も見落とさない目を持っているのです。
このような蟹漁の本場から届けられた松葉蟹が「さかばやし」にやって来ます。名残りの蟹ともいうべき、今冬シーズン最後の美食をぜひ3月の「旬を堪能する会(3月26日PM7:00〜)」で味わってください。繊維質の入り方がよく、甘みと旨みを有した松葉蟹こそ、関西人が愛すべき食材だということが再確認できるはずです。
(文/フードジャーナリスト・曽我和弘)